研究課題/領域番号 |
18K05302
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
石田 直哉 東京理科大学, 理工学部先端化学科, 講師 (60712239)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池正極材料 / 結晶構造解析 / 局所構造解析 / 層状岩塩型構造 / 放射光X線回折 / 中性子回折 / XAFS |
研究実績の概要 |
前年度に続き、Li二次電池正極材料である層状岩塩型ABX2 (A: Liイオン, B: 遷移金属イオン, X: 酸化物イオン)において、Bサイトに生じる欠陥と正極特性に関して研究を行った。 これまでの検討によって、Bサイトの欠陥が新たなLi挿入サイトとして利用されることで高容量を導くことが明らかとなった。しかし、欠陥へのLiの挿入は負極が金属リチウムのように正極へLiを供給することができる負極でないと有効に働かない。実用を考慮すると、あらかじめ欠陥にLiを挿入する手法が必須である。そこで、本研究は新しい物質系への発展として、ABX2を合成するための前駆体を調整する時点でLiを導入して、その後、Na/Liイオン交換を実施することで合成されるA(B,Li)X2の研究に取り組んだ。 前年度までに合成した三種類の金属組成比を持つABX2との比較を行うために、同様の組成でLiを欠陥に含むA(B,Li)X2を三種類合成した。いずれの試料もXRDとICP-AES、そして酸化還元滴定により同定を行った。その結果、LiがBサイトにあらかじめ挿入された物質を裏付けられ、目的物質の合成に成功した。正極特性を評価した結果、充電容量の増加が確認され、放電容量は250 mAh/g程度とわずかに増加することが明らかとなった。このことは挿入されたLiが電気化学反応に寄与しており、新規の物質設計に成功したと結論付けられる。しかし、一方でサイクル特性は、欠陥を持つ試料に対して低下しており、あらかじめ欠陥に導入するLiの量を検討する必要があると考えられる。今後、化学的Li挿入法を利用して、欠陥へのLiの導入を検討することと、事前に仕込むLiの量を検討していき、量子ビームによる結晶構造解析を行うことで、正極特性と結晶構造の関係を明確にして実用的な新規Liイオン電池正極材料に関する知見を深めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、欠陥を持つ正極材料を精査することで、新たな高容量発現機構を学術的に含めることが目的であった。昨年度では、種々の試料を合成して結晶構造を解析し、それぞれの正極材料との関係を検討することで、当研究課題の主目的は昨年度の途中でほぼ達成することができた。未だ不足がある部分としては、遷移金属組成のことなる試料をより多く合成して、統計的に予測される欠陥と特性の関係を明らかにすることである。しかし、昨年度の進捗では、欠陥を応用した新たな正極材料の合成に着手しており、さらにそれらの正極特性評価をする段階まで進展した。これらの新たな正極材料は当初の研究計画では到達する予定にはなく、当初の計画以上に進展したと判断される。したがって、前年度の研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって当初の計画から進展した新たな正極材料の発見に至ったことから、当初の計画と新たな計画の両方を展開していく。まず、当初の計画として組成の異なる試料の合成とその平均・電子・局所構造解析を行う。これらの試料に対して、放射光X線と中性子を用いた回折実験および全散乱実験を中心にXAFSを補助的に実施して解析する。既に予想される通り、遷移金属組成と欠陥量には相関があり、充放電容量に大きく影響を及ぼすがサイクル特性については検討の余地があるため、容量とサイクル特性に優れた遷移金属組成を探索する。 一方新たな計画として、欠陥にLiを挿入した新規のA(B,Li)X2について平均・電子・局所構造解析を上記と同様に行い、欠陥に導入されたLiの局所的な配位状態を明らかにする。欠陥に導入されたLiが有効に充放電反応に寄与しているか、未だ確証が得られていないことから、充電後の電極に放射光X線回折で調査する。サイクル特性が低い課題を解決するために、サイクル後の電極について放射光X線回折を利用して、結晶構造変化を明らかにして、サイクル特性と関係のある結晶構造情報を抽出する。最終的な研究目的は当初の計画から変更はなく遷移金属欠陥を利用することで新たなLiイオン正極材料の発展とその高容量機構を明らかにすることであるが、現在の進捗を考慮してさらにサイクル特性を向上させる機構についても検討を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究は当初の計画より進むこととなった。その結果、予定した試料よりも少なく研究を遂行できたため、予定した予算よりも少なくなった。当初予定していた研究については次年度に行うため、その分が次年度使用額として新たに計上した次第である。研究の進捗は当初のものよりも進んでいることから、次年度は予算を最大限に活用して、研究課題を満たしかつ、さらなる成果に発展するよう研究課題を実施していく。
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