研究課題/領域番号 |
18K05303
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
根本 修克 日本大学, 工学部, 教授 (30237812)
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研究分担者 |
小林 以弦 日本大学, 工学部, 講師 (50267027)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 固体高分子型燃料電池 / 酸素還元触媒 / フタロシアニン / 炭素触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では,固体高分子型燃料電池空気極用触媒創製のための焼成前駆体としてカルボキシ基含有金属フタロシアニンおよびアミン化合物とのアミド結合形成による複合体形成を行った後,得られた複合体を焼成することによりπ電子共役系が拡張された金属担持型炭素系触媒の創製を行い,その触媒活性評価を行った。 すなわち,カルボキシ基含有金属フタロシアニンとジアミン芳香族化合物を用いて,直接重縮合法によるアミド結合形成反応を行い,金属フタロシアニン複合体を合成した。得られた金属フタロシアニン複合体を石英管中に静置し,セラミクス電気管状炉を用いて水素あるいは窒素気流中で焼成することにより,金属担持型炭素触媒を得た。前年度に触媒活性は窒素含有量に依存せずに,焼成前駆体の耐熱性に依存することが明らかとなったことから,今年度はまずジアミン芳香族化合物の芳香族部位をベンゼン環からナフタレン環あるいはトリフェニレン環に置き換えた誘導体を用いて金属フタロシアニン複合体を合成した。焼成を行うことにより得られた金属担持型炭素系触媒の触媒活性評価を行ったところ,焼成前駆体の耐熱性が高いほとど触媒活性が高いことが示唆された。さらに,窒素以外の部位が触媒活性点となる可能性を探るために,酸素あるいはイオウを有するジアミン誘導体を用いて金属フタロシアニン複合体を合成した。焼成を行うことにより得られた金属担持型炭素系触媒の触媒活性評価を行ったところ,触媒活性は酸素やイオウの含有量に依存せずに,窒素含有量に依存する傾向が確認された。したがって,高活性の触媒を得るためには,高い窒素含有量を有する高耐熱性の焼成前駆体を合成することが有効であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,固体高分子型燃料電池空気極用触媒創製のために有効な焼成前駆体の分子設計指針を明確にすることを目的の一つとしているが,焼成前駆体の窒素含有量を増大させる分子設計を行いとともに,その耐熱性を向上させる必要性があることを明らかにすることができている。これは,昨年度に引き続き,固体高分子型燃料電池空気極用触媒創製のために有効な焼成前駆体の分子設計指針に対する重要な知見を得たものと考えている。さらに,本研究では,酸素還元触媒活性点およびその機構を明らかにすることも目的の一つとしているが,窒素以外の元素,すなわち,酸素やイオウを含有するフタロシアニン複合体から得られた金属担持型炭素系触媒の触媒活性評価を行い,酸素やイオウを含有することにより触媒活性が向上することがなかったことから,酸素還元触媒の活性点としてグラフェン炭素に結合した窒素が;関与していることが重要であることを示唆するものであり,酸素還元触媒活性点の解明に対して重要な知見を与える結果として評価できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までの研究成果から,固体高分子型燃料電池空気極用触媒の酸素還元活性は,触媒中のグラフェン骨格中に含まれる窒素含有量に依存することを明らかにし,高耐熱性の焼成前駆体が高活性の触媒を与えることが明らかとなっている。また,窒素以外の元素を含有しても触媒活性に大きな影響を与えないことから,2020年度は,窒素を含有する他のジアミン芳香族化合物を用いたフタロシアニン複合体系合成を行うことを計画している。さらに,触媒活性には焼成により得られた炭素触媒の形状に大きく依存することが考えられるため,2020年度はこれまでに得られた高活性の触媒を微細化することを計画しているとともに,当初の予定通り,金属担持型炭素系触媒の含有金属による酸素還元触媒活性の違いに関する検討,固体高分子型燃料電池空気極用触媒の触媒活性点の特定および酸素還元反応機構解明,触媒粒子サイズの最適化および触媒耐久性の評価を引き続き行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度も,予定していたよりも少ない試薬使用量により研究が遂行でき,触媒活性評価に用いる電極等の消耗品の購入も最小限で行うことができたため,次年度使用額が生じた。しかしながら,2020年度はさらに数多くの触媒焼成前駆体合成を行う予定であり,合成に必要な試薬,高価な金属原料,溶媒,合成用器具の購入が大幅に増加することが想定されることに加え,触媒活性評価件数が大幅に増加することに伴い,触媒活性評価に用いる電極を前年度以上に購入する必要が生じる。さらに,触媒の微細化を検討する際には委託費が生じるため,これらの経費として2020年度分助成金とともに使用する計画である。
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