研究課題/領域番号 |
18K05312
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
百武 篤也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (70375369)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非線形光学顕微鏡 / 無蛍光イメージング / マルチモーダルイメージング / 細胞膜イメージング / ジャイアントベシクル / SFG顕微鏡 |
研究実績の概要 |
我々はすでに、蛍光やりん光などを放射しない非線形光学顕微鏡専用の無発光性分子を用いた、「細胞膜の無蛍光第2高調波発生(SHG)+細胞内2光子蛍光」のマルチモーダルイメージングに成功しているが、現在の所、無蛍光SHGイメージングは、細胞膜に適用範囲が限られている。そこで研究期間中に無蛍光SHGイメージングの適用範囲を拡張するため、新たな非線形光学顕微鏡による測定および、細胞内小器官や細胞膜の部分構造のイメージングを狙った、様々な専用分子を開発することを最終目的とし、研究をスタートさせた。 初年度では研究の第一段階として、従来の「細胞膜のSHG+2光子蛍光イメージング」という研究範囲を更に拡張すべく1)SHG顕微鏡以外の非線形光学顕微鏡による測定、2)新たなサンプル系の開拓を行った。 1)SHG顕微鏡と同様に2次の非線形光学効果を利用し膜の非中心対称性がシグナル発生条件となるSFG(和周波発生)顕微鏡で、従来のSHG専用無蛍光性色素を用いた膜イメージングと同様のイメージ取得を試みた。SHGイメージングと同様の方法で染色を行った結果、細胞膜上から良好なSFGシグナルが得られることが確かめられた。 2)細胞膜は非常に複雑な構造を持つため、非線形光学顕微鏡を用いて膜動態明らかにしていくためには、細胞の直接観察を行う一方で、膜構成成分が明らかなジャイアントベシクル(GV)とよばれる細胞もどきを作成・観察するアプローチが有用である。本研究ではDOPCと呼ばれるリン脂質から成るGVを作成し、細胞イメージングと同様の手法にて専用無蛍光性色素を用いたSFGイメージングを行った所、球状のGVの無蛍光イメージングに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請当初の目的である、細胞の任意の部位、例えばミトコンドリアのSHGイメージングは達成できていない。その一方で、本研究の基盤となるイメージング法や、サンプル系の拡張に成功しており、当初よりもむしろ、研究全体の可能性を拡げることに成功しつつあるため。具体的には当初はSHG+2光子蛍光イメージングが唯一の測定手法であったのに対し、本研究ではSFG顕微鏡やCARS顕微鏡によるイメージングも可能であることを確認できただけでなく、観察対象としても当初は生細胞のみであったのに対し、本研究により様々なジャイアントベシクルの作成法も習得し、その非線形光学イメージングにも成功しため。また、現在進行中であるが、ジャイアントベシクルのトポロジー変化を人為的に引き起こし、その非線形光学イメージングにも成功しつつあるため。
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今後の研究の推進方策 |
細胞膜は単なる殻ではない。研究申請当初の目的である、細胞の任意の部位、例えばミトコンドリアのSHGイメージングや細胞膜のラフトのイメージングの達成のためには、そもそも、細胞膜透過性の無い膜色素を細胞内に輸送する必要がある。そのためには任意でエンドサイトーシスのような膜のトポロジー変化を引き起こし、細胞内に新たなベシクルを形成させるなど、膜のトポロジーの変化や再構築を制御することが必要である。そうすると直接当初の結果の取得を目指すよりもむしろ、より基本的な膜ダイナミクスを人為的に引き起こし、その変化の様子を捉えるための基盤技術構築を行うこと、また、それを引き起こすための新たな分子開発が必要なことが明らかとなってきた。そのため本研究では新たな無蛍光イメージング専用分子の開発と、それを用いてジャイアントベシクルでトポロジー変化を人為的に引き起こし、その変化の様子を非線形光学顕微鏡で捉えることを次年度の推進方策とした。その成功をもって、生細胞膜のトポロジー変化に応用し、細胞内の非線形光学イメージングを達成させることを最終目標とした。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に本研究費の支給額は超えないが、やや高額な装置の購入を検討していたため。もし該当装置を購入した場合、残額で次年度の消耗品や旅費をまかないきれない可能性があり、研究に支障がでることが考えられたため、初年度に無理やり使い切るのではなく、次年度に回し、全年度を通じてより効果的に研究を推進することを優先した。
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