2020年度は、(1)2019年度に開発したチオエステル前駆体をさらに発展させたCP-Thd(チアゾリジノン)ペプチドの開発に成功し、(2)またこれを用いたDNA上でのペプチド連結反応を開発した。(1)に関しては、チオエステル前駆体として機能することが知られている「Cys-Pro-脱離基」構造の脱離基にチアゾリジノン構造を持つCP-Thdペプチドの開発を行った。チアゾリジノン構造は、ペプチド固相合成中に導入されるCys残基から樹脂上で定量的に誘導することが可能であり、また固相合成後に液相で迅速かつ定量的にチオエステルへと変換可能であることを明らかにした。CP-Thdペプチドは、これまで開発されたN-Sアシルシフト型チオエステル前駆体としては、最も高効率にチオエステルへと変換可能な分子となった。最終的には、CP-Thdペプチドを用いてヒストンH3タンパク質のワンポット化学合成に成功し、Org.Lett誌へ報告している。(2)に関しては、ペプチド-DNAコンジュゲートをCP-Thdペプチドと一本鎖DNAをクリック反応によって作製し、DNA上でのペプチド連結反応を行ったところ、サブuM(マイクロモラー)という、通常のペプチド連結反応が全く進行しないような低濃度条件でペプチド連結反応が進行することが明らかとなった。さらに、ペプチド連結反応にはチオール触媒を添加する必要がないため、その後の脱硫反応までワンポットで行うことが可能であることが明らかとなった。チオエステルとCys間のペプチド連結反応であるNCL(native chemical ligation)をここまで低濃度で実現したのは本研究が初めてである。
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