研究課題
本研究では、高い熱安定性・pH安定性を有する蛋白質ケージ(Scaffold)のもつ直径約8nmの内部空洞に標的蛋白質を閉じ込め、粒子画像抽出が容易なScaffoldごとクライオ電顕単粒子解析法によって立体構造を決定すること、そのために必要な技術基盤を構築することを目的としている。現在までに、モデル分子を用いて発現ベクターの構築から、精製、電顕観察、画像解析までを繰り返し、高分解能構造を得るために必要な技術基盤を1つ1つ精査・開発を行っている状態である。蛋白質発現に関しては、Scaffold蛋白質と標的蛋白質の発現量をそれぞれのベクターのコピー数をコントロールすることで、適切なScaffold-標的蛋白質複合体を発現させることに成功した。蛋白質精製に関しては、精製タグを6 x his-tagから蛋白質タグに変更することでScaffold-標的蛋白質複合体を分離することに成功した。標的蛋白質のケージ内固定化に関しては、Scaffoldと標的蛋白質を繋ぐリンカーを種々のαヘリックス形成配列に置換し、標的蛋白質を含まないケージを作成し結晶構造解析にて評価した。ところが、ケージの高い対称性と異なる対称要素を持つため、もしくは期待した硬い構造を形成できないために、いずれの場合もリンカー部分の電子密度を観察できなかった。今後は、標的蛋白質固定化、Scaffoldとリンカーの対称性を検討し高分解能での構造解析を実現したい。
3: やや遅れている
モデル標的蛋白質としてGFPを用いて、発現系の構築・精製条件検討を行った。その結果、1.Scaffold蛋白質と標的蛋白質の発現量をそれぞれのベクターのコピー数をコントロールすることで、適切なScaffold-GFP複合体を発現させることに成功した。2.蛋白質タグを付加することで、Scaffold-標的蛋白質複合体のみを単離することを試み、ほぼScaffoldのみの分子種からScaffold-標的蛋白質複合体を分離することが可能となった。しかしながら、蛋白質タグを付加することでそれぞれの発現量のコントロールが難しくなり、以前に比較して構造解析に適した試料の収量が減少した。3.GFPがScaffoldに対して、複数の向きで配置している問題に関してはGFPの相対配向を固定するために剛直なリンカーをGFPとScaffoldとの間に導入しGFPの固定 化を試みたが、GFPの組み込んでいないリンカー配列を付加したScaffoldの結晶構造解析から、Scaffoldと同じ対称性を持った剛直なリンカーの作成に至っていない。
標的蛋白質の相対配向を固定するために剛直なリンカーを再検討しクライオ電顕単粒子解析法による解析可能な複合体の作成を目指す。
電顕画像取得と画像解析・構造解析を研究協力者に依頼していたが、分子デザインから構造解析のサイクルを早く回すため構造解析ワークステーションを購入し、画像解析・構造解析も研究代表者が行う。そのため、構造解析ワークステーションを購入に必要な経費を令和元年度分より請求した。
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eLife
巻: 9 ページ: e52566
10.7554/eLife.52566