研究課題/領域番号 |
18K05316
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川上 徹 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (70273711)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 蛋白質 / ライゲーション / ヒストン / 翻訳後修飾 / ユビキチン |
研究実績の概要 |
これまでにトリメチル化リシンをはじめとした修飾アミノ酸残基を含むヒストンH3,H4の化学合成に成功している.また,チイランリンカーを利用したユビキチン化イソペプチドアナログの合成も行っている.本研究においては,引き続きトリメチル化およびユビキチン化ヒストンH3の化学合成を進めている. これまでにイソペプチドアナログ構造によるユビキチン化ヒストンH3部分ペプチドによって,DNAメチル化酵素Dnmt1の活性が向上することを報告している.その構造の検証のため,今年度はまず,天然型イソペプチド構造を有するユビキチン化ヒストンH3の合成を行った.その結果,天然型イソペプチド構造によるユビキチン化ヒストンH3部分ペプチドは,そのアナログと比べて,修飾部位による活性化の傾向は同じであることが分かった.しかし,天然型イソペプチド構造のほうがその活性化の割合が小さい傾向があった.そのため特定の機能の解明には天然型構造が重要であり,これを受けて,天然型イソペプチド構造を有するユビキチン化全長ヒストンH3の全合成を行った.本合成においてはCPEライゲーション法を用いた. また一方で,O-GlcNAc化ヒストンH2Aの合成を行った.100残基を超えるヒストンなどのタンパク質の合成の多くの場合,3つ以上の合成ブロックを用いて複数回のライゲーションを繰り返すことによって,全長配列のタンパク質を合成する.一般的にはライゲーション反応および末端の脱保護反応ごとにHPLCによる精製を行う.そのために精製時間が必要であり,また,回収率の低下が問題となる.本合成においては,アリールチオエステル,CPE,およびNAC法を用いて,4つのペプチドセグメントをワンポットで縮合した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複雑なタンパク質の調製は合成化学に要求されるテーマの1つである.4種類のヒストンタンパク質が2分子ずつからなる8量体にDNAが巻き付くことでヌクレオソームが形成される.このヒストンは複数の部位に多様な翻訳後修飾を受け,この化学修飾はエピジェネティックな遺伝情報の発現制御に関与している.この機能の詳細な解明のためには部位特異的に化学修飾したヒストンおよびヌクレオソームの調製が必要である.本研究では,独自に開発したCPEライゲーション法を基盤として,種々の修飾を有するヒストンを完全合成し,これらの翻訳後修飾の機能やクロマチンの構造に与える影響の解明に寄与することを目的としている.以前のトリメチル化リシンあるいはユビキチン化アナログヒストンの合成に加えて,本年度は天然型ユビキチン化およびO-GlcNAc化ヒストンの合成に成功した.また,ユビキチン化ヒストンでは,そのアナログでも機能を模倣することは可能であると思われるが,詳細なメカニズムの解明には天然型構造が重要であることが明らかとなったことは重要な知見である. 以上の結果から,おおむね順調に進呈していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
4種類のヒストン2分子ずつからなる8量体にDNAが巻き付くことでヌクレオソームが形成される.このヒストンは複数の部位に多様な翻訳後修飾を受け,この化学修飾はエピジェネティックな遺伝情報の発現制御に関与している.この機能の詳細な解明のためには部位特異的に化学修飾したヒストンおよびヌクレオソームの調製が必要である.本研究では,独自に開発したCPEライゲーション法を基盤として,複雑な修飾を有するヒストンを完全化学合成し,これらの翻訳後修飾の機能やクロマチンの構造に与える影響の解明に寄与することを目的としている. 昨年度までに,トリメチル化,ユビキチン化ヒストンH3およびO-GlcNAc化ヒストンH2Aの合成を行ってきた.このうち,ユビキチン化ヒストンH3では,天然型イソペプチド構造とアナログ構造ではその効果に差異が見られ,その結合様式が重要であることが明らかとなった.その効果の差異を詳細に調べることは1つのテーマとなる.また,O-GlcNAc化修飾について,その機能は不明であり,その解明が必要である. 一方で,ヒストンの完全化学合成を効率よく進行するためには,簡便で効率的な合成法が必須である.修飾ヒストンの調製を進めつつ,ライゲーション法の効率化を行う.100残基を超えるヒストンなどのタンパク質の合成の多くの場合,3つ以上の合成ブロックを用いて複数回のライゲーションを繰り返すことによって,全長配列のタンパク質を合成するが,一般的にはライゲーション反応および末端の脱保護反応ごとにHPLCによる精製を行う.そのために精製時間が必要であり,また,回収率の低下が問題となる.現在,固相上でペプチドセグメントの連続的なライゲーションによる固相ライゲーション法の検討を進めていて.これによって精製ステップを減らし,合成効率を向上させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究がおおむね順調に進行したため,若干の予算を繰り越すことになった.この予算については,無駄遣いの無いように今年度の研究に効果的に組み込み,さらなる研究の進展のために使用する.
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