研究実績の概要 |
H2の分解/合成酵素[NiFe]ヒドロゲナーゼの触媒反応には、H2のガス拡散、電子伝達、およびH+輸送の3つのプロセスが必要であるが、そのうちNi-Fe活性部位でのH+生成と輸送機構については殆ど解明されていない。申請者が提唱した触媒反応サイクル(Ni-SIa, Ni-L, Ni-C, Ni-R)のうち(Angew. Chem. Int. Ed. 2014)、Ni-RにおけるH-とH+の結合様式は解明されているが(Nature 2015)、触媒反応におけるH+の輸送機構は不明である。本課題では、光操作技術とFT-IR分光法を駆使して、Ni-CとNi-LおよびNi-SIaにおける、Niに末端配位しているCys546のプロトン化の有無を突き止めた。光照射前後のNi-LとNi-C間の超高感度FT-IR差スペクトルでは、2505 cm-1にS-Hの伸縮振動に由来する正のバンドが観測され、D2O/D2で調整した酵素では1826 cm-1(S-D伸縮振動)に同位体シフトして観測された。従って、Ni-CではCys546が脱プロトン化されているのに対し、Ni-Lではプロトン化されていること、Ni-C(Ni3+)からNi-L(Ni+)への反応では、Ni-Cにおける架橋したH-がH+として放出され、Cys546の硫黄に輸送されることが明らかになった。一方、Ni-SIaとNi-C間の超高感度FT-IR差スペクトルでは、S-Hの伸縮振動に由来するバンドは観測されず、Ni-LからNi-SIa(Ni2+)への反応では、Cys546の脱プロトン化が関与することが示された。また、Ni-Fe活性部位と直接にリンクしたGlu34とH2Oのバンドを検出することに成功し、触媒反応でのH+輸送と密接に関与していることを明らかにした。これらの結果は、ヒドロゲナーゼの触媒反応機構の本質的な理解に寄与するものである。
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