研究課題/領域番号 |
18K05321
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
澤井 仁美 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 助教 (50584851)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄代謝 / 鉄イオンの吸収 / 膜タンパク質 / 金属トランスポーター / 構造機能解析 |
研究実績の概要 |
鉄は、すべての生物の生命維持に必須の遷移金属元素である。生物は、食餌などに含まれる鉄源(鉄イオンやヘム鉄など)を種々のタンパク質の介助によって感知・輸送・貯蔵・再利用することにより、酸素の運搬貯蔵・エネルギー変換・異物代謝・遺伝子合成などの重要な生理機能に用いている。しかし、体内に蓄積された余剰な鉄は活性酸素の発生源になるため、生体内の鉄濃度は厳密に制御されている。ヒトの場合、余剰な鉄の積極的な排出経路がないため、鉄イオンの吸収調節が生体内鉄濃度の恒常性維持において重要なステップとなる。そのため、鉄イオンの吸収調節の分子機構を詳細に調べることは、鉄栄養素の効率的な摂取方法や鉄代謝異常による疾病の理解を助ける。 これまでに申請者らは、ヒトにおける鉄イオンの動態の分子機構を解明するために、ヒトの十二指腸の柔毛表面の粘膜上皮細胞に局在し、鉄イオンの吸収に必須の膜貫通型鉄還元酵素Dcytbの立体構造を決定した。その構造から、腸管腔側に金属イオンとアスコルビン酸が協調的に結合することを見出した。そこで本研究課題では、ヒト由来鉄還元酵素Dcytbの立体構造を基盤とし、生きた細胞による機能解析によりヒトが食餌から獲得した鉄イオンの吸収機構を分子論的に解明することを目的とした。平成30年度は、出芽酵母S. cerevisiaeの鉄還元酵素欠損酵母による機能解析による鉄キレーターの効果の検討ならびにヒト腸管モデル細胞のカップ培養系を用いたヒトDcytbの機能解析系を確立した。今後は、細胞内への鉄イオンの取り込みについても検討するとともに、鉄イオンの吸収効率を向上または低下させる化合物が、Dcytbに対してどのように作用しているのかを構造生物学的な手法により分子論的に明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画通り、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの鉄還元酵素欠損酵母による機能解析による鉄キレーターの効果の検討ならびにヒト腸管モデル細胞のカップ培養系を用いたヒトDcytbの機能解析系を確立できた。鉄還元酵素欠損酵母による機能解析では、本酵母の鉄還元酵素遺伝子fre1/fre2を欠損させ、代わりにヒト由来Dcytbの遺伝子を導入し、その酵母に発現させたヒト由来Dcytbによる鉄還元活性を定量した。この機能解析系の反応液に、食物に含まれる有機酸(クエン酸・リンゴ酸など)、糖類(フルクトース・グルコースなど)、鉄キレーター類(フィチン酸・タンニンなど)を添加し、これらの化合物がDcytbによる鉄イオンの還元活性に与える影響を検討できた。また、この系にDcytbの変異体を発現させ鉄還元反応に必須のアミノ酸残基を特定した。ヒト由来Dcytbの立体構造と酵母による機能解析の結果を論文にし、Communications Biologyにて発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に確立したヒト腸管細胞モデル系を用いて、鉄イオンの吸収についてさらに深く検討する。このモデル細胞系では、多孔性メンブレンフィルター上でヒト結腸由来あるいはイヌ腎尿細管由来の細胞株を培養すると、十二指腸や小腸の粘膜上皮細胞のように極性細胞が同じ方向に一層に密接して細胞間結合した状態を形成することを利用し、ヒトの腸管における鉄イオンの吸収を再現することができるようにした。この細胞にDcytbならびに二価金属トランスポーターDMT1を発現させ、鉄イオンの還元反応や鉄イオンの細胞内への取り込みについて検討する。これまでに、このモデル細胞系にDcytbを発現させることはできているので、今後はDMT1の発現について検討する。両タンパク質を発現させることができれば、細胞内への鉄イオンの取り込みを定量することができる。この系を用いて明らかにした鉄イオンの吸収効率を向上または低下させる化合物が、DcytbあるいはDMT1に対して、どう作用しているのかを構造生物学的な手法により明らかにするための準備を進める。
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