研究課題/領域番号 |
18K05328
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研究機関 | 公益財団法人九州先端科学技術研究所 |
研究代表者 |
宇田 泰三 公益財団法人九州先端科学技術研究所, マテリアルズ・オープン・ラボ, 特別研究員 (20232837)
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研究分担者 |
田口 博明 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (20549068)
一二三 恵美 大分大学, 全学研究推進機構, 教授 (90254606)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スーパー抗体酵素 / β-amyloid / Tauタンパク質 / 認知症 / scFv様分子 |
研究実績の概要 |
認知症の2大原因物質としてβ-amyloidおよびTauタンパク質が知られている。これらが脳に沈着し脳神経細胞を痛める事で認知症が発症する。そこで、本研究はで、上記の2大原因物質であるβ-amyloidおよびTauタンパク質をそれぞれ標的として、両者を同時に分解しようとするのが目的である。このために最終的に「2機能型スーパー抗体酵素」を作製する事を順次進めて行く。具体的には、主として遺伝子工学的合成法により、β-amyloidに対する抗体酵素とTauタンパク質に対する抗体酵素をそれぞれ作製し、両者をリンカーで繋ぎ併せて、ひとつの分子として合成し、初期の目的を達成するものである。このためには、まず、β-amyloidを分解する抗体酵素およびTauタンパクを分解する抗体酵素を取得せねばならない。これまでにこの両抗原に対するヒト型スーパー抗体酵素をそれぞれについて,我々が所有する抗体酵素バンク(軽鎖タンパク質)の中から複数クローンを見出した。次いで、これらの中から分失敬に最適なクローンを選んで、遺伝子工学的に、β-amyloidを分解する抗体酵素の可変領域とTauタンパク質を分解するに抗体酵素の可変領域とをリンカーを挟んでscFv様分子として合成する事を試みた。H31年度は、このように設計したscFv様分子が予定していたように機能するのかどうかついて、精製法を含めて、FRET抗原を用いたペプチダーゼ活性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
β-amyloidに対する抗体酵素研究についてはこれまで幾種類かのヒト型抗体酵素クローンを見出した。一方、Tauタンパク質を分解するヒト型抗体酵素については、Tauタンパク質の複数の領域を標的とした抗体酵素クローンの開発を行った。 1)β-amyloid(Aβ)に対する抗体酵素:合成基質FRET-A-betaをsubstrateに用いた探索研究で、S-series中, H-series中そして#7TRを合わせて複数のヒト型抗体酵素を見出している。なかでも#7TRクローンは発現量・FRET-Aβ分解性能ともに良好なので、この可変領域をscFv様分子の片側に使用した。 2)Tauタンパク質を分解する抗体酵素:Tauタンパク質は約440のアミノ酸を有するタンパク質であるが、そのアミノ酸配列の中には特徴的な領域がいくつか存在する。本研究では、C末側配列(391-408番目: Tau-C peptide)およびN末側配列(19-30番目: Tau-N peptide)に対する抗体酵素を見出した。これらのうち、C末側を分解するC1およびC2クローンよりも、N末側配列を分解するN1クローンの方が、より特異性の高い分解性能を示した。 3)2機能型スーパー抗体酵素(scFv様分子)の性能:scFv様分子の遺伝子を大腸菌に形質転換し、IPTGによる発現を試みたが、可溶性に発現してくるscFv蛋白質は、単独で発現させた#7TRとくらべて少量であった。これを通常のNi-NTAカラムクロマトに掛けて精製し、それを、それぞれFRET-AβおよびFRET-tauのsubstrateを用いて両ペプチドに対する反応性を調べた。その結果、2機能を1分子に閉じ込めたscFv様分子は、それぞれのペプチドsubstrateを分解した。
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今後の研究の推進方策 |
1) scFv様分子の動力学的性質:2機能型スーパー抗体酵素(scFv様分子)のβ-amyloidおよびtauに対する分解性を掘り下げて、その性能を解明する事は重要である。即ち、それぞれに対する動力学的性質kcatとKmの値は性能評価に必須である。そこで、これらについて研究を進め、それぞれの蛋白質についての反応性についてscFv様分子の特徴を明らかにする。 2) scFv様分子のさらなる分解活性向上:現在作製しているscFv様分子のβ-amyloidおよびtau ペプチドに対する分解性能は、それぞれ、#7TRやN1クローンが分解する性能と同レベルである。それほど低い値では無いが、我々は,別の研究で、抗体酵素の活性を飛躍的に向上させる手法を発見している。そこで、次年度は、この手法を採り入れて、現在、使用しているscFv様分子に改良を加えて、さらなる,活性向上を図る。 3)Tau蛋白質の分解試験: これまで、scFv様分子の酵素活性は、おもに合成基質(FRET-TauやFRET-Aβ)を用いて行ってきたが,応用面を考慮すると、蛋白質に対してどの程度の分解性能があるかを調べる必要がある。そこで今年度はrecombinant Tauを用いて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度172,667円が余り、これを2020年度に繰り越す。この残額は、主に、新型コロナのせいで東京で3月22日から開催されるはずであった第100回日本化学会春季年会が,急遽,中止になった事が主な要因である(学会は成立)。2020年度はこれをバイオ製品の購入や学会参会費に充当する予定である。
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