研究課題/領域番号 |
18K05332
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小倉 俊一郎 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (90343160)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アミノレブリン酸 / ワールブルグ効果 / 制癌法 |
研究実績の概要 |
癌は効率が悪いにもかかわらず解糖系からエネルギーを獲得している。これはワールブルグ効果と呼ばれ、癌共通の形質として認識されている。近年ワールブルグ効果の解消が新しい癌治療のターゲットとなりうることが指摘されているが、有効な薬剤は発見されていない。一方申請者は、天然アミノ酸であるアミノレブリン酸(ALA)を用いることによって細胞の好気呼吸能が亢進し、癌細胞の死を誘導することを見出している。そこで本研究ではALAによる好気呼吸能亢進に伴う細胞死メカニズムを詳細に検討し、ワールブルグ効果の解消による新規癌治療戦略を提唱する。 初年度では癌細胞に対するALA添加による好気呼吸亢進のメカニズムについて検討した。その結果、ALA添加によって生成するヘムが好気呼吸を大きく亢進することを明らかとした。ヘムはALAと鉄イオンを用いて生成されることが知られているため、ALAと鉄イオンを共添加することとした。その結果、ALA単独添加と比較してさらに好気呼吸能を亢進することができた。好気呼吸能の指標としてチトクロムcオキシターゼ(ミトコンドリア複合体IV, COX)の活性に着目した場合では、ALAと鉄の共添加では非添加と比較して約2倍程度の亢進が確認された。これは癌細胞で好気呼吸能を大幅に亢進できた初めての例となった。 さらにヘムの生合成がワールブルグ効果に与える影響を詳細に検討するために癌細胞の解糖系とヘム生合成の関係について詳しく調べた。その結果、解糖系が亢進している癌細胞においてはヘム生成量が極端に少なかった。以上のことからヘム生合成とワールブルグ効果の関係が明らかとなり、ALAによってヘムが生成し解糖系が抑制できることを示唆することができた。 このように本年度は癌のワールブルグ効果の解消法として、好気呼吸能の亢進・解糖系の抑制が可能となるALAと鉄の共添加法を提唱することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではワールブルグ効果の解消による新たな制癌法の開発を行う。本年度の目標は「ワールブルグ効果を解消し得る方法論の開発とメカニズムの解明」であったが、アミノレブリン酸と鉄の共添加によってワールブルグ効果を解消し得ることを見出した。さらに、これらの効果は好気呼吸に必須であるヘムの生合成によるものであることを明らかとしており、メカニズムの一端も解明できたと言える。以上のことから当初の計画に対しておおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アミノレブリン酸と鉄の共添加によってワールブルグ効果を解消し得ることを見出した。今後は次の二点に焦点を置いて研究を進めてゆく。(1)アミノレブリン酸と鉄の共添加による殺細胞効果を測定する。実際にワールブルグ効果を解消したことによる細胞死への効果を詳細に検討する。アミノレブリン酸の単独添加によって殺細胞効果が得られているため、より高い殺細胞効果が期待できる。(2)ヘム生合成を制御し得る手法を開発する。本研究によってヘム生成がワールブルグ効果の解消に直接寄与することが明らかとなった。そのため、ヘム生成を促進する手法を開発してゆく。具体的にはアミノレブリン酸投与に加えて、ヘム分解系の阻害やヘム排出系の阻害など新たな手法について検討する。
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