研究課題
がん、高血圧、慢性炎症など種々の疾病に対する医薬品の分子標的の多くは膜タンパク質である。その構造解析の難度は依然として高いため、現時点で構造ベースの創薬研究の進展は限定的である。これまで研究代表者らは膜タンパク質に抗体フラグメントを結合させて結晶化を促進するという独自技術を開発し、X線結晶構造解析を推進してきた。本研究では、膜タンパク質の機能を制御する中分子アプタマーの創出とその構造学的検証に有用な新しい方法論を確立することを目指している。本年度は、大環状ペプチドではなく、立体的束縛を有する安定なペプチド分子骨格 (50-90残基) を基盤として複数の末端ループの配列と長さを多様化した合成ライブラリーを作製し、高い親和性と特異性を兼ね備えたバインダーの探索を試みた。具体的には分子内に多数のジスルフィド結合が架橋され強い立体的束縛のある安定な中分子ペプチド骨格であるICK (inhibitor cysteine knot) フォールドをベースとして、その末端ループの配列と長さを多様化した中分子母集団を人工合成し、ファージディスプレイ系ライブラリーを作製した。免疫チェックポイント受容体PD-1、炎症性サイトカインTNFα等の複数のモデル標的分子を用いて、特異的に認識し結合するファージ集団を4-12サイクル程度の選抜を経て、増幅・濃縮した。選抜過程でのファージ集団の優占度の遷移をシーケンス解析にて評価した。以上の解析から解離定数が数μM程度の中分子バインダーが取得可能であることを示した。
2: おおむね順調に進展している
立体的束縛を有する安定なペプチド分子骨格 (50-90残基) を基盤として複数の末端ループの配列と長さを多様化した合成ライブラリーを実際に作製して、異なる複数の創薬ターゲットに対して中分子バインダーが取得可能であるというフィージビリティーを検証することができたため、初年度の目標は概ね達成できていると自己評価した。
大きな細胞外ドメインをもつ一回膜貫通受容体膜タンパク質(PD-1)や可溶性サイトカイン(TNFα)など限られた標的のみならず、今後はGタンパク質共役受容体 (GPCR)、イオンチャネル、膜輸送体など比較的小さな細胞外ドメインしか持たない多数回膜貫通型の内在性膜タンパク質をも標的とした中分子バインダー取得のための技術開発を進めてゆきたい。
当初計画では,本年度にX線結晶構造解析の回折データ測定のためSPring-8への出張を見込んでいたが、創薬ターゲットタンパク質ー中分子バインダー複合体の結晶がまだ生成していないことから、その出張計画を中止した。そのため出張経費を使用しなかったために次年度使用額が生じた。当該経費は、次年度以降に当初計画通りのSPring-8出張費として使用する計画である。
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