研究課題/領域番号 |
18K05335
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
太田 伸二 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (60185270)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生理活性物質 / 海綿 / 軟体サンゴ / 昆虫 / 棘皮動物 / 胚発生 |
研究実績の概要 |
日本、エジプトおよびフィリピン近海で採集された海洋生物ならびに昆虫等のメタノール粗抽出物に対して、棘皮動物イトマキヒトデの受精卵を用いて胚発生阻害活性試験を行った。90%海水を用いて段階的に希釈した海洋生物等の粗抽出物に、1-メチルアデニン添加により成熟処理したイトマキヒトデ卵を媒精して得た受精卵を加えて顕微鏡下で胚発生に対する影響の有無を発生段階毎に顕微鏡下で観察した。特定の発生段階でイトマキヒトデの胚発生を選択的に阻害する活性が確認されたメタノール粗抽出物について、有機溶媒で順次溶媒分配を行って、ヘキサン、酢酸エチルおよび水の各可溶性画分を得た。これらの溶媒可溶性画分についてさらに活性試験を実施した。活性が認められた画分を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび逆相カラムクロマトグラフィーを用いて繰り返し分画・精製することにより活性物質を単離し、NMR、MS等のスペクトルデータに基づいて活性物質の構造を特定した。その結果、エジプトの紅海産ザルコフィトン属軟体サンゴのジクロロメタン-メタノール可溶性画分から、ザルコエレンベルギライドD-Fと名付けた3種の新規センブラン型ジテルペノイド類を単離した。これらの化学構造をNMRおよびMS等のスペクトルデータに基づいて決定するとともに、ECDスペクトルとTDDFT計算に基づいて絶対配置を決定した。これらの化合物は、肺癌細胞A549に対する細胞増殖阻害活性を示すことも明らかになった。また、ハムシ科の甲虫サイカチマメゾウムシの蛹室の成分として単離した活性物質は、X線結晶解析等に基づいて新規イソグアニン配糖体の硫酸エステル化合物であると決定した。これらはヒトデ胚の発生を初期原腸胚の段階で停止させることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトデ胚発生段階選択的阻害活性を示す数種の新規天然有機化合物を、海綿および昆虫抽出物から単離し、各種スペクトルデータならびにX線結晶解析等に基づいてそれらの構造を決定することができている。それぞれの単離物質の生理活性についても明らかにしてきており、他の粗抽出物からも新たな生理活性物質の分画・精製を進めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、棘皮動物胚発生阻害スクリーニングを行って各種海洋生物抽出物ならびに昆虫代謝産物から活性物質を探索するとともに、有望な活性物質について、大量抽出によって単離し構造を決定する。得られた化合物の生理活性について詳細に調べるとともに、構造活性相関を明らかにするためにそれらの化学構造を部分的に化学修飾・変換し、どの部分構造が活性発現に重要であるかを調べ、より簡単な構造でより強い活性を示す類縁体を見つけ出す。以上の知見を総合して、棘皮動物胚発生過程で細胞分化の制御に係わる特異的発生段階阻害物質を開発するとともに、細胞膜透過性に優れた抗癌剤候補等有用な薬剤開発のためのリード化合物の開発を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の生理活性物質の分画精製に時間がかかったことにより生理活性試験が次年度に持ち越しとなったため。次年度予算と合わせて試薬等の物品購入に充てる計画である。
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