研究課題
炭素環上に四級不斉炭素が密集した多環式天然物の合成は、「立体的に混み入った位置での立体選択的な炭素-炭素結合形成」と「四級不斉炭素周辺の官能基化」という2つの困難な課題があるため、大きく立ち遅れている。本研究は、立体的に非常に小さなシアノ基を活用した反応設計を行い、このような天然物の全合成を革新する方法論を開発することを目的とする。合成標的として、複数の四級不斉炭素を有し抗がん剤のリード化合物として期待されるアンドラスチンC、および新しいタイプの免疫抑制剤として注目を集めているブラシリカルジン類を設定し、その不斉全合成をめざした。また、合成方法論の拡張および実用性を検証するため、新規アルカロイドのハリコニン類の全合成研究に着手した。本年度得られた研究成果の概要を以下に示す。1)アンドラスチンCの全合成研究:昨年度までにBCD環部の構築法の開発に成功しているので、ABC環部の構築に取り組んだ。Cuervaらにより報告されたチタノセン触媒を用いるエポキシポリプレンのカスケード型ラジカル環化を参考にAB環部に対応するトランスデカリン骨格を構築した。得られたデカリン誘導体に対して、C環構築の足がかりとなるニトリル側鎖と不飽和ワインレブアミドの導入を行った。収率と選択性の点で改善が必要であるが、合成の道筋を立てることができた。2)ハリコニン類の全合成研究:特異なテルペン-ポリアミンハイブリッド型構造を有する天然物ハリコニン類の全合成に取り組んだ。我々が開発した求核部位としてニトリル側鎖を有する不飽和ワインレブアミドの分子内共役付加反応を用いて6員環形成と四級不斉炭素の構築を同時に行った。次いで、系内で調製されるZ体ビニル銅の分子内共役付加反応を行い、デカリン様コア骨格の高立体選択的な合成に成功した。
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Journal of Synthetic Organic Chemistry, Japan
巻: 78 ページ: 1085~1093
10.5059/yukigoseikyokaishi.78.1085