研究実績の概要 |
本研究では、ポリペプチド中のシステイン残基側鎖のチオール基に糖を付加する新奇S結合型糖転移酵素ThuSについて、構造生物学的研究を通じて、化学的・生物学的安定性が高いS結合型糖鎖修飾を触媒する酵素の反応機構の詳細な解明を目指している。平成31年度は、前年度に引き続き、試料調製と構造解析を進めた。 収集したThuSタンパク質結晶の回折強度データおよびセレノメチオニン置換体結晶ならびに重原子誘導体結晶から得られた回折強度データを処理し、異常分散効果を利用した重原子同型置換法により、初期位相を決定した。その後、2.71Å分解能でR=22.9%, Rfree=25.5%まで構造精密化した。 ThuSタンパク質の結晶構造解析の結果、モデルが構築できたのはThuSのC末ドメインに相当する領域のみであった。これは結晶化の過程でThuSタンパク質が切断・分解された可能性が高いと考えている。しかし、C末ドメインの立体構造はこれまでに報告のない新規構造であった。 構造解析を進めるにあたり、結晶構造解析の他に、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析にも取り組んだ。高エネルギー加速器研究機構のクライオ電子顕微鏡Talos Arcticaを用いて観察したところ、ThuSと考えられる粒子の観察には成功したが、試料の凍結前あるいは凍結時に凝集する傾向が見られたため、単粒子解析を行うには、さらなる条件検討が必要であることが分かった。タンパク質試料の精製条件、凍結時の溶液条件の最適化を行っている。
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