研究課題/領域番号 |
18K05341
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
大野 修 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (20436992)
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研究分担者 |
松野 研司 工学院大学, 先進工学部, 教授 (50433214)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リプログラミング / キヌレニン / シアノバクテリア / KNP-1 / 栄養飢餓 / グルタミン |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、多様な構造・機能を有する生物活性物質を供給する海洋生物から、がん細胞のリプログラミング機構に着目し、[1] がん細胞におけるキヌレニン産生阻害による免疫寛容抑制剤と、[2] がん細胞に特有な栄養代謝機構を阻害する物質の獲得を試みた。 [1]については、沖縄県石垣市産シアノバクテリアOkeania sp.のMeOH抽出物より単離した、キヌレニン産生阻害活性を有する新規環状ペプチドKNP-1の各種NMRスペクトルを解析し、平面構造を決定した。また、KNP-1の酸加水分解により構成するアミノ酸を単離し、Marfey法とキラルカラムによる分析により立体構造が不明であった全4個のアミノ酸の絶対配置を決定した。また、構造内に含まれるvalic acidの絶対配置についても、キラルカラムによる分析により決定した。KNP-1の構造内に存在するβアミノ酸部位に存在する2か所の不斉点以外の7か所の不斉点の立体化学を明らかにした。 [2]については、栄養飢餓状態を模した高細胞密度培養条件のがん細胞に対し、選択的な細胞死誘導活性を示す化合物を海洋生物より探索し、千葉県館山市産シアノバクテリアのMeOH抽出物に活性を見出した。各種カラムクロマトグラフィーにより活性物質を単離し、各種スペクトル解析により活性物質が既知の脂肪酸誘導体であることを見出した。また、同一サンプルより、強力な活性を示す他の化合物も単離しており、今後、構造を明らかにする。 また同様に[2]について、グルタミン含有条件選択的にがん細胞の増殖を阻害する物質の探索を行い、複数の既知化合物に活性を見出した。更に、それらの化合物のグルタミナーゼに対する阻害活性を評価したところ阻害活性を示さないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞のリプログラミング機構を調節する新たな物質を海洋生物から獲得し、作用機序を解明することを目指して、[1] がん細胞におけるキヌレニン産生阻害による免疫寛容抑制剤の探索と、[2] がん細胞に特有な栄養代謝機構を阻害する物質の探索を実施し、それぞれの研究で一定の成果が得られた。 [1]については、先行研究で見出しているキヌレニン産生阻害活性を有する化合物である新規環状ペプチドKNP-1について、分解反応に供して、Marfey法とキラルカラムによる分析により、分子内に合計9か所ある不斉点のうち、7か所の不斉点の絶対配置決定できた。完全な構造決定に向けて大きな進展があった。 [2]については、がん細胞に対し栄養飢餓条件選択的な細胞死誘導活性を示す化合物を海洋生物より探索し、千葉県館山市産シアノバクテリアのMeOH抽出物に活性を見出した。本抽出物を精製して2種類の活性物質を単離し、そのうちの一つの構造を決定した。また、もう一つの化合物の構造は未決定であるが、ユニークな構造を持つことを示唆するデータを得ている。後者の化合物は、同評価系で活性を示す他の化合物に比べて活性も非常に強力であり、魅力的な化合物を得ることができたと考えている。 また同じく[2]に関して、がん細胞のグルタミン代謝機構に着目し、グルタミン含有条件選択的にがん細胞の増殖を阻害する物質のスクリーニングを行い、複数の化合物に活性を見出した。また、本評価系をアレンジし、得られた化合物のグルタミナーゼの阻害活性を測定する新たな評価系を構築できた。本評価系を活用することで、グルタミン代謝阻害剤の評価に役立てることができると考えている。 以上の結果を踏まえ、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、がん細胞のリプログラミング機構を調節する新たな物質の海洋生物からの獲得と、その作用機序の解明を目指して、[1] がん細胞におけるキヌレニン産生阻害による免疫寛容抑制剤の探索と、[2] がん細胞に特有な栄養代謝機構を阻害する物質の探索を実施し、それらの機能を解明する。 [1]については、キヌレニン産生阻害活性を有する新規環状ペプチドKNP-1の構造内に存在するβアミノ酸部位に存在する2か所の不斉点の立体化学が未決定であるため、その決定に取り組む。具体的には、想定される全ての立体化学をもつβアミノ酸を化学合成し、KNP-1由来の同βアミノ酸とNMRスペクトルと比旋光度の比較を行うことで決定する。また、解明した構造を基に、KNP-1の全合成研究にも着手する。同様に、KNP-1の標的分子解明に向けた化学修飾によるプローブ化を検討する。また、KNP-1のIFN-γのシグナル伝達経路への影響を解析し、キヌレニン産生阻害機構を明らかにする。 [2]については、千葉県館山市産シアノバクテリアのMeOH抽出物から単離し、構造が未決定である化合物の構造を解析する。また、2018年度に本活性を見出したpanaxcerol B及び昨年度単離した化合物による栄養飢餓条件のがん細胞に対する選択的なアポトーシス誘導機構について、詳細な作用機序を解析する。具体的には、栄養飢餓状態の細胞内で起こるオートファジー等への化合物の影響を評価する。また同様に[2]に関して、がん細胞に対するグルタミン含有条件選択的な増殖阻害活性を見出した化合物の作用機構を解析する。また、新たに改良した評価系を用いて海洋生物由来のグルタミナーゼ阻害剤を探索する。 以上の実験を通じ、新たながん細胞のリプログラミング調節物質の発見とその作用機序解明を目指した研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)旅費として予定よりも多くの額を支出した。しかしながら、予定していたよりも物品費としての支出が少なかったため、合計すると少額の余剰金が発生した。
(使用計画)余剰分は次年度の物品費に使用する予定である。次年度分として請求した金額は予定通り、物品費、旅費、その他の経費に使用する予定である。
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