研究課題
活性窒素による中枢神経細胞傷害は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患との関連性が知られている。本年度は、活性窒素による神経細胞傷害に対して保護効果を示す化合物を真菌などの微生物の代謝産物から探索した。まず、日本各地から土や植物などから真菌を単離し、液体培地で培養した。培養液を分画し天然物ライブラリーを構築した。ラット副腎褐色細胞腫PC12を神経成長因子(NGF)により神経細胞に分化させ、得られた天然物ライブラリーで処理した。その後培地を交換することにより化合物を除去し、活性窒素パーオキシナイトライトONOO-のドナーであるSIN-1で処理した。乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイにより死細胞(細胞傷害)を検出することで、SIN-1による細胞死を抑制する化合物を探索した。約600種の化合物について活性試験を行った結果、Pestalotiopsis microsporaが生産する化合物が神経保護活性を示した。この化合物の構造を核磁気共鳴装置(NMR)や質量分析装置(MS)により解析した。その結果、この化合物は、未だ構造の報告がないvinyl-alkyne構造をもつ新規ハイドロキノン誘導体であり、pestalotioquinol Aと名付けた。さらに類縁体としてpestalotioquinol Bを単離・構造決定した。神経細胞に分化したPC12を1-3 uM のpestalotioquinol で前処理するだけで、化合物を除いた後もSIN-1に対する保護効果を示した。また、ハイドロキノン部位をメチル化した誘導体では神経保護活性は見られなかったから、保護活性にはハイドロキノン部位が重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
真菌代謝産物からのスクリーニングにより高い神経保護活性を示す新規化合物pestalotioquinolを得ており、既にこの化合物の作用機構の解析を進めているため、おおむね順調に進展していると考えている。また、pestalotioquinol Aはペルオキシナイトライトなどの活性窒素による細胞死に対して特異的に保護活性を示し、過酸化水素などの活性酸素種に対しては保護活性を示さない可能性が示唆されており、現在解析を進めている。
Pestalotioquinol Aに関しては活性窒素に対する特異性について解析を進める。また、細胞内のグルタチオンなどの内因性抗酸化物質の量などを調べる。研究計画に従ってpestalotioquinol Aが作用する遺伝子やタンパク質を探索する。また、化合物ライブラリーからのスクリーニングをさらに進めることでpestalotioquinol以外の神経保護物質も探索する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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