活性窒素(RNS)による神経細胞傷害は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患との関連性が知られている。前年度まではRNSであるペルオキシナイトライト供与体SIN-1による細胞傷害から、神経細胞に分化したPC12細胞を保護する化合物を探索し、新規化合物pestalotioquinol A(pesA)、citreoviridin、pyrenophorolを見出した。さらに真菌の2次代謝産物からなる化合物ライブラリーから保護物質を探索した結果、ヒット化合物として環状ペプチドであるenniatin Bの類縁体が得られた。これらヒット化合物の中でcitreoviridinおよびenniatin Bは活性酸素種の産生を誘導することが報告されている。そのため、citreoviridinおよびenniatin BはSIN-1処理前に細胞に軽度な酸化ストレスを与えることで、プレコンディショニング効果を発揮し、SIN-1に対する保護作用を示したと考えられる。PesAはpyrenophorolよりも低濃度で神経細胞保護作用を示したことから、pesAに焦点を絞り解析を進めることにした。PesAが細胞内で抗酸化物質としてはたらくことが知られているグルタチオンの量を変化させるか調べた。PesA処理した細胞の細胞内グルタチオン濃度を測定した結果、還元型グルタチオンおよび酸化型グルタチオン濃度にも有意な差はみられなかった。この結果から、グルタチオンはpesAの細胞保護作用に関連がないことが示唆された。前年度からの解析によりpesAの細胞保護活性はRNSによる細胞傷害特異的であることも明らかになっており、pesAが既存の保護物質とは異なる作用機構を持つことが示唆された。
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