本研究ではプロテアーゼ阻害剤を直接的にビオチン化した誘導体を合成し、ストレプトアビジンの添加により酵素活性のOFFからONへの制御が可能な「リムーバブル阻害剤」を創製することを目的とした。昨年度までの研究結果から本研究のリムーバブル阻害剤の設計手法をセリンプロテアーゼのトリプシンを標的とするリムーバブル阻害剤にあてはめ、ビオチン化部位の変更および添加するストレプトアビジンについての検討を行った。 bPI-14およびbPI-15はC末端のベンゾフェノン部位にビオチンを導入した誘導体であるが、導入前のOS-460と比較するとトリプシン阻害活性が低下している。そこで、N末端側へのビオチンの導入を検討してトラネキサム酸とフェニルアラニンの間のアミド結合に着目し、ヒドラジドで伸長させたアミノ基への導入を試みた。tertブチルオキシカルボニルヒドラジドより既知の合成方法にてオキサジリジンの合成を進めてフェニルアラニン中間体と反応させたところ、目的物は得られなかった。今後は別の合成経路を検討する必要がある。 市販の2社のストレプトアビジンを用いて、bPI-15によるトリプシン活性の回復を検討したところ回復速度に違いが見られた。検討したところ、1社のストレプトアビジンにトリプシン様の酵素活性が混入していることが発覚した。その1社のストレプトアビジンを用いる赤血球細胞に添加実験では溶血が起こることがわかった。トリプシン様の酵素活性は、ストレプトアビジンの加熱処理により消失することがわかったことから、今後、トリプシンを標的とするリムーバブル阻害剤の実験には用いるストレプトアビジンに注意が必要である。 新型コロナウイルスの世界規模での大流行により、SARS-CoV-2メインプロテアーゼに標的をおいて本研究課題のリムーバブル阻害剤の設計を行い、酵素アッセイに用いる2種の蛍光基質の合成が完了した。
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