研究課題/領域番号 |
18K05352
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金森 功吏 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (90633446)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GFP色素 / turn-on蛍光 |
研究実績の概要 |
本研究では、糖鎖受容体を始めとする受容体などの非酵素タンパク質へ適用可能なturn-on型蛍光プローブの探索手法の開発を進めている。通常状態では無蛍光であるが分子内回転が抑制された時に蛍光強度の上昇を示す蛍光性分子ローターとして、GFP色素誘導体を用いて研究を行っている。 本年度は、1)GFP色素誘導体の蛍光応答性の向上を目指し、蛍光の粘度応答性と構造の関係を調べる検討、2)turn-on型蛍光プローブの細胞への適用を目指し、糖を認識する膜タンパク質GLUTを標的とした蛍光イメージングを試みた。その結果、細胞膜上から強い蛍光シグナルが観察され、プレリミナリーながら細胞膜上でGLUTに結合して蛍光を示したことを示唆する結果を得た。 3)また、光親和性残基を導入しタンパク質と共有結合させて強固に分子内運動を拘束させるアジド修飾GFP色素誘導体について、蛍光強度をさらに増強できる誘導体の合成を進めた。 4)昨年度から引き続き、単純な構造の色素として粘度依存的蛍光応答を示すビアリール化合物を用いた新規蛍光色素骨格の探索から見出されたスルフィドとニトロ基を導入したビフェニル誘導体について検討を進めた。このものとグルコースとのコンジュゲート体を、GLUTを過剰発現しているPC-3細胞に作用させたところ、細胞膜上からは蛍光シグナルは見られなかったが、細胞内から蛍光シグナルが観測された。阻害実験において一定の割合で阻害がかかったことから、GLUTを介して細胞内に集積可能な蛍光プローブであることを見出した。このビフェニル誘導体については、蛍光と光増感能の両方を有しており、実際に光照射によるがんの殺傷効果も確かめられ、がんの光線力学診断や光線力学治療への適用が期待される(論文化済み、Bioorg. Med. Chem., 2022, highlighted as front cover)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度検討を進めていた、GFP色素誘導体のturn-on蛍光特性を利用したビーズ上でのプローブのスクリーニングの検討の際に、蛍光シグナルのさらなる増強の必要性が明らかになった。そこで、蛍光応答性に優れた色素を開発するため、まずGFP色素誘導体の蛍光の粘度応答性と構造の相関関係を調べることとし、開発した16個のGFP色素誘導体について、グリセロール/メタノール比を変化させた溶媒中で蛍光強度を測定し、蛍光の粘度応答性と構造の関係を調べた。その結果、アミノ基とベンゼン環のねじれを固定したジュロリジン誘導体や種々の環状アミノ基誘導体との比較から、GFP色素骨格内の二重結合や単結合のねじれではなく、アミノ基とベンゼン環の結合のねじれを示唆する結果を得た。これについては、計算化学を用いた検証を進めている。また、ねじれを抑制するには分子全体のかさ高さが重要と考えれるが、一定程度以上かさ高くすると、逆に粘度応答性が大幅に低下する知見を得た。さらに、これまで論文で報告されている蛍光性分子ローターと比較して、分子量を抑えつつ最高クラスの粘度応答性を示すGFP色素誘導体を見出すことができた。 つづいて今回見出したGFP色素誘導体を用いて、細胞表面にて糖を認識するタンパク質GLUTを標的にturn-on型蛍光イメージングを行った。PC-3細胞を含む培地に、グルコースとGFP色素誘導体のコンジュゲート体を添加し、洗浄しない条件にて共焦点顕微鏡で観察したところ、細胞膜に沿って蛍光シグナルが観察された。競合阻害剤としてグルコール共存下で実験したところ、プローブ添加から1時間後に蛍光シグナルが消失した。以上から、プレリミナリーではあるがGLUTに結合して蛍光を示している可能性が示唆された。GLUTは種々のがん細胞で高発現しており、がんの迅速診断技術への応用も視野に入れ検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度実施したPC-3細胞の蛍光イメージングでのGLUT選択性について、siRNAを用いたノックダウンによるコントロール実験を行って検証を進めると共に、他の受容体を標的としたプローブ開発の可能性の探索も進める予定である。このことに関連して、標的タンパク質の構造によっては、GFP色素誘導体を強固に拘束できないことが予想されるため、先述のアジド修飾GFP色素誘導体の開発を進め、光照射により共有結合を形成して拘束させる方法を用いて、将来的には任意の受容体タンパク質に対するturn-on型蛍光プローブの開発を目指す。さらに、これらの技術を用いて非酵素タンパク質全般へのturn-on蛍光イメージング、術中診断技術、turn-on型蛍光色素を用いたディスプレイスメントアッセイによる創薬を指向した阻害剤探索法への展開を目指していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に行った細胞の蛍光イメージング実験において、プレリミナリーながら実験が比較的スムーズに進行したため当初の計画よりも使用額に余裕が生じた。一方、GLUTに選択的に結合しているかなどの検証を次年度に引き続き行うため、そのための合成や生化学実験の費用として使用する予定である。
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