研究課題/領域番号 |
18K05353
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
近藤 輝幸 京都大学, 工学研究科, 教授 (20211914)
|
研究分担者 |
山田 久嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (80512764)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 光音響イメージング / 高分子プローブ / 近赤外蛍光色素 / ナノ粒子 / 活性酸素種 / ベタイン / ホスホリルコリン |
研究実績の概要 |
腫瘍内の活性酸素種(ROS)の作用には両面性があり、腫瘍の悪性化を促進する作用と、アポトーシスを誘起し腫瘍増殖を抑制する作用がある。ROSの一種である次亜塩素酸イオン(ClOアニオン)についても、酸化力が強く、腫瘍の悪性化や細胞のアポトーシス誘起に関与していることが知られているが、腫瘍における存在量や病態に及ぼす作用機序については未だ不明な点が多い。従って、腫瘍内に存在するClOアニオンを、低侵襲で画像化する新しいイメージングプローブの開発により、ClOアニオンが誘起する病態の解明や抗がん剤の早期薬効判断が可能になることが期待される。 しかしながら、腫瘍内のClOアニオンを高精度に画像化するためには、生体深部を観測可能なモダリティを利用できること、高い腫瘍集積性を有すること、腫瘍内に存在するClOアニオンとの反応をレシオメトリックに評価可能であること、という3点を満たす革新的プローブの開発が求められる。 そこで、本年度は、ClOアニオンと選択的に反応する近赤外蛍光色素として、親水性に優れたIRDye-800CWを選択し、腫瘍集積性と選択性が極めて高い13Cラベル化ホスホリルコリンポリマー(13C-PMPC)の末端に導入した800CW-13C-PMPCプローブを設計・合成した。合成した800CW-13C-PMPCプローブを評価した結果、1H-{13C}二重共鳴 MRI 法によりClOアニオンの存在量をin vitroおよびin vivoのいずれにおいても規格化可能であり、ROSの中でClOアニオンのみに選択的に応答した光音響イメージング(PAI)画像が得られた。以上の結果から、新規800CW-13C-PMPCプローブが、腫瘍内ClOアニオンを定量化するためのレシオメトリック型PA/MRデュアルイメージングプローブとして有効であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、低侵襲性かつ高精度での腫瘍内活性酸素種(ROS)の可視化と定量を実現するin vivo PA/MRデュアルイメージングおよびレシオメトリックイメージングに800CW-13C-PMPCプローブが極めて有効であり、腫瘍内の活性酸素種(ROS)のPAI画像化により、腫瘍の悪性度という「質的情報」が得られる。すなわち、800CW-13C-PMPCプローブを用いるPA/MRデュアルイメージングは、抗がん剤投与前後の腫瘍内ClOアニオンのリアルタイム画像化、および抗がん剤の早期薬効評価への応用が期待される。以上の様に、本研究は当初の実施計画通り、順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
非輻射失活過程を経る光音響イメージング(Photoacoustic Imaging, PAI)と輻射失活過程である蛍光イメージング(fluorescence imaging, FI)とは、トレードオフの関係にあり、蛍光量子収率が低い分子ほど優れたPAIプローブであると考えられる。これまで溶媒粘度の増大により、蛍光分子の単結合の回転運動が抑制され、蛍光発光強度が増大するという報告はあるが、運動性の低下がPAIに及ぼす影響および効果については、未だ明らかにされていない。従って、最終年度は、これまで開発を進めてきたPAIプローブの中から、肝臓、脾臓、腎臓への蓄積が全く観測されず、かつ最も高い腫瘍集積性を示す800RS-PMPCプローブを選定し、本プローブを分散させた有機溶媒の粘度を増大することで、プローブの運動性が低下した結果、800RS-PMPCプローブのFI/PAI特性の変化を明らかにする。すなわち、高粘度の有機溶媒中でのPAIプローブの機能向上により、同様に運動性が著しく低下する腫瘍組織に高集積したPAIプローブのさらなる高機能化に繋がる。
|