研究課題/領域番号 |
18K05354
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
小堀 哲生 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (00397605)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SERS / 核酸 |
研究実績の概要 |
1997年に表面増強ラマン散乱(SERS)現象を利用した単分子計測が報告されて以来、表面増強ラマン散乱は蛍光法を凌駕する新しい高感度生体分子計測法として大変注目されている。しかしながら、シグナル強度の揺らぎや再現性の低さから、これまでその利用は生体分子の定性分析にとどまっている。本研究期間において我々は、内標と生体分子応答部位とが同一分子内に組み込まれたラマンタグを利用した定量表面増強ラマン散乱(quantitative SERS : qSERS)法を開発することで、表面増強ラマン散乱現象発見以来の課題であったSERSシグナルの定量化・規格化を実現する。さらに、開発したラマンタグが生体分子の様々な解析手法に応用可能であることを示すため、qSERSを利用した3つのキラーアプリケーションの開発を行う。アプリケーション1:体液中バイオマーカーの高感度測定 ; アプリケーション2:生体分子定量イメージング ; アプリケーション3:超高解像度蛍光顕微鏡への応用 平成30年度はアプリケーションへの適応を志向した応用研究の準備段階として、定量SERS測定の基本原理の構築を第一目標にすえて研究を実施した。その結果、二種類のSERSタグを利用した測定系の構築に成功し、基本原理の証明を無事に終了している。えられた研究結果については、第2回日本核酸化学会年会、平成30年度日本分光学会年次講演会、日本化学会 第99回春季年会等の主要な学会で報告しているとともに、現在論文投稿の準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施項目:定量SERS測定(quantitative SERS:qSERS)の基本原理構築 実施人員:平成30年度、本研究は、研究代表者と2名の大学院生、研究協力者により京都工芸繊維大学で執り行われた。 これまで我々は、金ナノ粒子上に様々な置換基が導入された生体直行型SERSタグを開発してきている。その中で、アルキンタグとニトリルタグが導入された金ナノ粒子を同時測定した場合、一方のタグをもとに他方のタグの強度を補正可能であるという知見を得ている。この知見は、「金ナノ粒子の状態と標的の濃度に応答して強度を変化させる生体直行型SERSタグ」と、「金ナノ粒子の状態のみに応答して強度を変化させる生体直行型SERSタグ」の二種類のSERSタグを用いれば、標的由来のSERSシグナルを定量可能であることを意味する。そこで本研究期間において我々は、二種類の生体直行型SERSタグを利用することにより、生体分子を高感度かつ定量的に測定する定量SERS(qSERS)測定に着手した。現在、アルキンタグとニトリルタグの2つのタグを導入した核酸分子の化学合成、ならびに金ナノ粒子上への導入、特定SERSシグナルの有無を確認している。また、相補鎖の濃度変化と対応してシグナル強度が変化することの確認にも成功している。これらの結果は、当初の予定通りqSERS測定の要となる「内標を用いたSERSシグナルの規格化」について、二種類の生体直行型ラマンタグを利用することにより実行可能であることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、研究代表者と2名の大学院生、連携研究者により執り行われる予定である。研究内容は、①定量SERS測定(quantitative SERS:qSERS)の基本原理構築、②生体分子高感度検出技術の開発、③生体分子定量イメージングならびに生体分子測定用プラットフォームへの転用、の3本の柱から構成されている。今年度は、とくに以下に示す計画①と計画②を中心に研究を進める。 「計画①定量SERS測定(quantitative SERS:qSERS)の基本原理構築」に関して。昨年度の検討により、定量SERS測定の基本原理構築はほぼ終了しているが、標的として用いている核酸は一本鎖核酸に限られていた。また、ならびに生体分子夾雑環境中での検討は行われていなかった。そこで本年度は、ステムループ型の構造を形成する核酸、四重鎖核酸等の特殊構造を形成する核酸を標的として、検出系の構築を行う。また、近年では、生体分子夾雑系での物理化学に関する知見・重要性が謳われるようになってきている。そこで、我々の検出系についても生体分子夾雑系での利用の可能性を検討する。 「計画②生体分子高感度検出技術の開発」に関して。疾患の生物学的指標である体液中miRNAは、疾患をごく初期の段階で発見・診断する先制医療に利用することが可能であるため大いに注目されている。我々は本研究期間において、qSERS測定系を構築することにより、体液中に極低濃度に存在するmiRNA定量システムの開発を目指す。本システムは、SERSシグナル強度がタグと金ナノ粒子表面との距離に応じて劇的に変化するという性質を利用している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験では、有機合成に関わる一般的な器具、ならびに試薬類を使用するが、器具に関しては実験施設ならびに実験室に備えられた物品を利用したため使用に際して費用はかからなかった。また、一般試薬類に関しても他研究と共通して利用していたため、当研究のみで特別に利用する試薬は殆どなかった。そのため、一般試薬類に関する費用も発生しなかった。また、各酸誘導体に関しても、利用した標的RNAならびにDNAは化学合成により準備できたため、別途受注生産をする必要がなく核酸受注生産に関わる費用も発生しなかった。ラマン散乱測定に関しては、学内施設ならびに京都市の共同施設を利用した。学内施設の利用料は発生しているが、NMR、質量分析装置、液体窒素、廃液処理費用等を一括で支払っているため、区別することなく学内公費により支払いを済ませている。また、京都市の共同施設の場合、大学の研究者が実施している研究について利用料をとっていないため、費用は発生していない。また、令和1年度は、ラマン測定に関して、特に核酸の受託合成費用が大きくなることが予想される。また、新たなラマンタグの開発、miRNA測定に関する研究がスタートする。以上の理由により、次年度使用学が生じた理由と次年度の仕様計画である。
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