研究課題/領域番号 |
18K05354
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
小堀 哲生 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (00397605)
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研究分担者 |
和久 友則 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 助教 (30548699)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラマン散乱 / SERS / 核酸 |
研究実績の概要 |
人類の生存を脅かす様々な疾患に対処するために、多くの人が受診することのできる正確、簡便、高感度、かつ非侵襲的な疾患診断法の開発が求められている。現在、疾患診断法として最も汎用されているイムノアッセイ法は、非侵襲的で操作が簡便である。しかしながら診断用バイオマーカーの探索に時間がかかるという問題がある。一方、ガン、エイズ、インフルエンザ、成人病などの広範囲の疾患の発症にともなって血液、喀痰、尿などの検体に含まれる特定のRNAの濃度が変化することが近年明らかとなってきている。そのため、検体中の核酸成分を簡便に測定する技術が確立されれば核酸成分をバイオマーカーとして利用する疾患診断法が実現可能になると考えられる。そこで我々は、シグナル増幅型のラマン測定法(SERS)に関した研究を行っている。これまでのSRS測定は、シグナル強度の揺らぎや再現性の低さから、これまでその利用は生体分子の定性分析にしか利用されていなかったが、 本研究機関において我々は、内標と生体分子応答部位とが同一分子内に組み込まれたラマンタグを利用した定量SERS(quantitative SERS : qSERS)法を開発することで、SERS現象発見以来の課題であったSERSシグナルの定量化・規格化を実現した。えられた研究結果については、日本核酸化学会年会(ISNAC2019)、2019年度日本分光学会年次講演会、第13回バイオ関連化学シンポジウム、日本化学会春季年会等の主要な学会で報告しているとともに、現在論文投稿の準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実施人員:平成31年度、本研究は、研究代表者と2名の大学院修士課程学生、1名の大学院博士課程学生により京都工芸繊維大学で執り行われた。 ステムループ型SERSプローブの開発に関する進捗状況:21-25塩基程度の小さなRNA分子であるmiRNAを標的とした検出系の構築を試みた。miRNAはガンの診断マーカーとして非常に注目を集めているnon-codingRNAで、逆転写定量PCRが検出に利用されているが操作が煩雑であるため診断にほとんど利用されていない。そこで我々は、miRNAの定量を目指した測定系の構築を行った。シグナル強度の再現性向上を目指し、核酸の両末端に内部標準となる官能基と標的miRNAに応答する官能基の二種類の官能基を就職したステムループ型プローブを設計した。まず、各官能基を有するホスホロアミダイトユニットを合成した後、ホスホロアミダイト法を用いてステムループプローブを合成した。合成したステムループプローブとSERS基質を組み合わせたステムループ型SERSプローブを利用した結果、miR-21の検出に成功した。 PEG-核酸複合体を導入したSERSプローブの開発:生体サンプル中の核酸をバイオマーカーとして利用するためには、高い塩濃度でも凝集を起こさないSERS基質の開発が不可欠であることが最近の研究により明らかとなった。そこで、複数個のヘキサエチレングリコールユニットとプローブDNAが結合された核酸誘導体を利用した、新しいSERS基質の開発にも取り組んだ。 本年度は新型コロナウィルスの影響により大学研究室の実験環境が整わず2月半ばからはほとんど研究を実施させることができなかった。そのため、プロジェクトの進行度は、当初の予定よりも若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで我々は、金ナノ粒子上に様々な置換基が導入された生体直行型SERSタグを開発してきている。その中で、アルキンタグとニトリルタグが導入された金ナノ粒子を同時測定した場合、一方のタグをもとに他方のタグの強度を補正可能であるという知見を得ている。この知見は、「金ナノ粒子の状態と標的の濃度に応答して強度を変化させる生体直行型SERSタグ」と、「金ナノ粒子の状態のみに応答して強度を変化させる生体直行型SERSタグ」の二種類のSERSタグを用いれば、標的由来のSERSシグナルを定量可能であることを意味する。そこで令和2年度は、この測定原理を応用した2つの課題を実施する予定である。課題①二種類の生体直行型SERSタグを利用することにより、生体分子を高感度かつ定量的に測定する定量SERS(qSERS)測定を行う。標的核酸は、細胞や体液中に含まれるnon-codingRNAの一種であるmiRNAとウィルスRNAとする。課題②高い塩濃度でも凝集を起こさないSERS基質の開発を目指し、PEG-核酸複合体を導入したSERSプローブならびにシリカゲル被覆された金ナノロッドを利用したコートされたSERS基質をあらたに作製する。さらに作製したSERS基質の生体適合性と核酸検出能について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウィルスの影響により大学研究室の実験環境が整わず2月半ばからはほとんど研究を実施させることができなかった。そのため、プロジェクトの進行度が、当初の予定よりも若干遅れるとともに残余さんも生じた。 次年度消耗品:令和2年度には、有機合成試薬、核酸合成試薬、核酸精製試薬・カラムなどのSERSプローブ作製に関連する消耗品を利用する。また、対象化合物として用いることを予定している天然型のDNAや、RNAについては、受託合成を予定している。さらに、SERSプローブの評価をPanc1細胞、SW480細胞、Hela細胞、ヒト子宮頸がん細胞(C4II)由来のヒト細胞抽出液を用いて行うため、消耗品として細胞培養関連試薬の購入を予定している。 次年度旅費: 12月に行われるPacifichem2020に参加する。
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