研究課題/領域番号 |
18K05357
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石田 敦彦 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (90212886)
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研究分担者 |
根平 達夫 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (60321692)
平野 哲男 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (50228805)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホスファターゼ / 阻害剤 / カルボニル化 / 乳がん細胞 / 転移浸潤 / 遊走アッセイ |
研究実績の概要 |
CaMキナーゼホスファターゼ (CaMKP/PPM1F/POPX2)はPPMファミリーに属するセリン/スレオニンプロテインホスファターゼである。最近の研究ではCaMKPが、がんの転移浸潤に重要な役割を果たすことが示唆されている。本酵素の有効な阻害剤を開発するため、東大創薬機構から提供を受けた約10万種の化合物ライブラリーを用いて、CaMKPを阻害するが同じPPMファミリーに属するPP2Cα(PPM1A)を阻害しない化合物の大規模スクリーニングを行った結果、ピロガロール骨格を持つ一群の化合物を阻害剤候補として同定した。これらの化合物をCaMKPとインキュベートすると強く酵素活性を阻害したが、同一条件下で近縁のPP2Cαは殆ど阻害しなかった。次にこれらの化合物をCaMKPと時間を変えてプレインキュベートし、酵素活性を測定したところ、時間依存的に強く活性を阻害した。この時、Biotin-hydrazideを用いたwestern blottingで酵素タンパク質のカルボニル化を調べたところ、時間依存的にCaMKPが顕著にカルボニル化されていたが、PP2Cαのカルボニル化は殆ど認められなかった。ピロガロール骨格の4位の水酸基をメチル化した化合物では、CaMKPのカルボニル化、酵素活性阻害が共に見られず、CaMKPの阻害には、ピロガロール骨格の4位の水酸基が必須であることが示された。また、酵素活性を失った変異酵素を用いて同様の実験を行ったところ、この変異酵素は全くカルボニル化されなかった。更に、CaMKPとピロガロール誘導体に基質リン酸化ペプチドを加えてインキュベートすると、CaMKPのカルボニル化が顕著に亢進した。以上の結果から、これらのピロガロール誘導体が、CaMKPを酵素活性依存的・特異的にカルボニル化し活性を阻害するという新奇な阻害機構が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新規に発見したCaMキナーゼホスファターゼ(CaMKP)阻害剤の阻害機構を解明するため、これらの阻害剤によって引き起こされるCaMKPのカルボニル化と酵素阻害の関係を詳細に調べた。その結果、カルボニル化によって酵素阻害が引き起こされるという仮説を支持する状況証拠を多数得ることができたが、その因果関係を明確に証明するには、阻害に直接関係するカルボニル化部位を同定し、その残基をカルボニル化が起こらない残基に変異させることによって阻害が解消されることを示す必要がある。そこで、質量分析を用いたカルボニル化部位の同定を進めているが、リン酸化などの修飾に比べてカルボニル化部位の解析技術は確立されておらず、また複数の部位のカルボニル化が考えられるため、感度等の不足により、サイト同定に十分なデータが得られていない現状である。
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今後の研究の推進方策 |
サンプル調製の条件等を再度検討して回収率や感度の向上を図って、質量分析によるカルボニル化部位の同定を更に推し進めるとともに、サイトがある程度絞り込めた段階で、候補部位に対する変異酵素を作製し、その変異酵素のカルボニル化の解析から責任部位の同定を目指す。カルボニル化されない阻害剤耐性の変異酵素を取得できれば、ノックダウン細胞に変異酵素を発現させることで、細胞レベルでの阻害剤の作用機作の解析も進めていきたい。
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