研究実績の概要 |
セリン/スレオニンプロテインホスファターゼであるCaMキナーゼホスファターゼ (CaMKP/PPM1F/POPX2)はがんの転移浸潤に重要な役割を果たす鍵酵素であることが示唆されており、特異的阻害剤の開発は喫緊の課題である。本年度は前年度に引き続き、ピロガロール誘導体によるCaMKPの特異的阻害機構に関して、論文発表に必要な、実験条件の揃った再現性あるデータを取得し、論文執筆に取りかかった(近日中に論文投稿予定)。更に、これらピロガロール誘導体とは全く別の、アミノナフトール系CaMKP阻害剤についても、ヒト乳がん細胞の遊走現象とCaMKPとの関連を調べた。 その結果、(1) 乳がん細胞の遊走とCaMKP活性が強く相関すること、(2)CaMKPに特異性が高いアミノナフトール系CaMKP阻害剤が、細胞毒性を示さない濃度範囲で遊走を強く阻害すること、(3)遊走現象と関連の深い細胞極性の形成を有意に阻害することを新たに見いだした。これらの知見は、CaMKPを介する新たな細胞機能調節機構の解明に貢献するのみならず、CaMKP阻害剤が、細胞毒性の低い新しいタイプのがん転移阻害剤として利用できる可能性を強く示唆している(第43回日本分子生物学会にて発表、論文投稿準備中)。 加えて、この遊走阻害の分子機構をより詳細に解明するために、CaMKPの基質であり、乳がん細胞の転移浸潤に関わるとの報告もあるCaMKIにも着目して研究を進めていたところ、CaMKIδには従来知られていなかったアイソフォームが合計4種類あることを発見したので、それらアイソフォームの生化学的性質の違いについても明らかにすることが出来た(J. Biochem. 169, 445-458, 2021)。
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