ヘムはヘムタンパク質内で補欠分子族として機能する以外に、遊離状態でも生体に多様な影響を与えるが、細胞内の遊離ヘムを観察する物理的ツールが確立されていないため、遊離ヘムの輸送機構や動態については詳細が解明されていない。我々は以前より、ヘムに対し高い親和性を持つヘム分解系酵素に着目したヘムセンサーの開発を行ってきた。ヘムオキシゲナーゼ1(HO1)およびシトクロムP450還元酵素変異体(ΔTGEE)は、HO1にヘムが結合している時のみ安定な複合体を形成することが知られており、これをヘムセンサーの構造基盤とした。 ヘム分解能を欠損させたHO1変異体(以降HO1と表記)にヘムが結合した後、ΔTGEEとHO1が複合体を形成することによって、FRETドナー(シアン色蛍光タンパク質CyPet)とアクセプター(黄色蛍光タンパク質YPet)が接近することを想定して、一分子型FRETヘムセンサーとしてYPet-HO1-ΔTGEE-CyPetを作製したが、ドナーとアクセプターの距離が近いことが示唆された。そこで本研究では、YPet-HO1およびΔTGEE-CyPetからなる二分子型ヘムセンサーを開発した。 二分子型FRETヘムセンサーに既知濃度のヘム溶液を添加した時の蛍光スペクトルや蛍光強度を測定し、ヘム濃度と蛍光強度変化の関係から機能評価を行った。その結果、ヘムの添加によりCyPetの477 nmの蛍光強度が低下し、YPetの525 nmの蛍光強度が上昇したことから、FRETを生じることが示唆された。ヘミンと本センサーの相互作用について、ヘミン濃度に対するYPetとCyPetの蛍光強度比の解析から解離定数は1.6 nMと推定された。上記の結果より、YPet-rHO-1とΔTGEE-CyPetはヘム存在下で複合体を形成し、FRETを生じることが示唆され、ヘムセンサーとしての応用が期待される。
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