研究課題/領域番号 |
18K05360
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
幡野 明彦 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10333163)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | チミジンホスホリラーゼ / ピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ / 蛍光プローブ / ダンシル基 / 反応転換率 |
研究実績の概要 |
本研究では,TPが存在する血管新生部分,すなわち癌細胞を蛍光という光で可視化するTP応答型蛍光プローブを開発することを目的とした。TPの触媒反応を受ける基質として,以下の様な分子をデザインし,合成を試みた。ウラシル塩基の5位にアルキルリンカーを結合させ,ダンシル基をもち,かつリボースの5’位に消光剤としてジニトロフェニル基を有する化合物の合成を試みた。塩基部位に蛍光色素を結合させることに成功し,340nmで励起し,520nmの蛍光を観測することができた。しかし,5’位への消光剤の導入はうまく行かなかった。ドッキングシミュレーションを行ったところ,ダンシル基を有する非天然ヌクレオシドも,TPの活性部位に取り込まれることを示唆した。 つぎに,TPを触媒としてダンシル基を持つヌクレオシド,またはダンシル基を持つウラシル塩基の反応性を検討した。まずダンシル基をウラシル塩基に共有結合させた化合物とチミジンの塩基部位交換反応では,2.1%の転換率となった。ダンシル基を結合させたことにより,溶解性が低下したと考えられたため,水溶性の有機溶媒であるDMSOを添加して基質を溶解し,検討を行った。その結果,DSMOを40%にすると転換率が64%に向上することがわかった。本検討により,ヌクレオシド構造内にダンシル基を酵素反応で導入できることがわかった。続いて,同系統の酵素であるピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ(PyNP)で同様のヌクレオシド合成反応を検討した。その結果,DMSOが存在しない系では転換率4.6%であったが,DMSO30%では64%,DMSO40%では78%となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
チミジンホスホリラーゼに反応によって蛍光の強度,もしくはストークシフトが起こるようなプローブ分子を開発する。今回,ダンシル基を塩基部位に導入することに成功した。リボースの5’位にアルキルリンカーを介して消光剤(ダブシル基,ジニトロベンジル基)の導入を検討した。チミジンの5’位水酸基をトシル化し,アルキルリンカーをカップリングする反応を検討したが,反応が起こらなかった。本検討で時間を多く利用してしまった。 次の検討として,塩基部位と蛍光色素の効果によって蛍光が変化する分子の設計である。塩基部位に疑似塩基として蛍光性の分子を導入し,過リン酸分解反応で強度変化やストークシフトが生じる分子を探索する。
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今後の研究の推進方策 |
現在,疑似塩基として蛍光色素分子を導入することを考えている。そのとき,過リン酸分解反応により蛍光強度,ストークシフトが起こる可能性がある複数の分子を検討していく。一つにクマリンがある。7-ジメチルアミノクマリンは,基底状態と励起状態でイオン電離構造が異なり,電荷移動が起こると期待される。このような蛍光色素は,吸収波長が長波長側にシフトする傾向にあるため,検討する。 また,クマリン骨格にイミダゾール環を結合した化合物は,核酸代謝酵素で触媒反応を受けることを明らかにしている。蛍光性分子であり,かつ電荷分離を起こすような分子構造で,TPの基質になる分子をデザインし,合成,検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究を十分に進まず,検討するための試薬の購入が次年度にずれ込んでしまったために2021年度へ繰り越した。本予算は,合成用の試薬費として利用する。
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