研究課題
令和2年度は、これまで開発した化合物を用いて下記(1)~(3)について検討した。(1)Ps-TG3の細胞応用:エステラーゼ活性に依らないGSTP1活性検出蛍光プローブPs-TG3を昨年度開発した。これを正常細胞NHDFとがん細胞HT1080細胞の混合培養系に適用した。その結果、HT1080細胞のみから強い蛍光が確認でき、Ps-TG3は少なくとも本混合培養系では正常細胞とがん細胞を区別できることが確かめられた。(2)Mito-BrNaph(TPPBNs)の酵素アッセイ・細胞イメージング:ミトコンドリア局在化に必要なTriphenylphosphonium(TPP)部位を持つ蛍光プローブTPPBNsを用いて、酵素アッセイ・細胞イメージングを行った。その結果、ミトコンドリア標的化GSTP1安定発現細胞株MCF7/mitoGSTP1において、ミトコンドリアにおいて強い蛍光がみられることが確かめられた。このことから、本プローブはミトコンドリア内のGSTP1活性を評価できるアッセイ系として機能することが示唆された。(3)Ps-CFの蛍光特性評価および有用性の検証: GSTP1非発現細胞であるRaji細胞に対し、Decitabineを投与したのち発現するGSTP1をPs-CFで検出できることが確かめられた。また、Ps-CFのレシオメトリックなプローブとしての特性を精査した。具体的には、蛍光団であるカルボフルオレセインの吸収・蛍光のpH依存性およびStern-Volmer消光について評価した。また、Ps-CFのレシオメトリックな特性が汎用的なデザインとなりうるかどうか確かめるために、GSTP1以外の標的分子に対するd-PeT型蛍光プローブの合成を行った。
3: やや遅れている
ミトコンドリア標的化プローブTPPBN1~3の評価を行ったところ、現在までにミトコンドリアに局在させたGSTP1の活性を捉えることは可能であることが確かめられた。しかしながら、現在までに内在性GSTP1の活性を評価できていないことから、プローブの応用に対して、そのような細胞を見出すことが必要であると考えられる。一方、リコンビナントタンパクを用いた酵素アッセイの結果、予想外にもTPPBN1がGSTA2に高い選択性を示した。そこで今後、本化合物の応用はGSTP1に拘らず、内在性のGSTA2活性を評価する。
令和2年度はCOVID-19により研究活動が中断され、遅れが生じた。そのため、本課題期間を当初より1年延長し、令和3年度までとした。最終年度である令和3年度には、次の2点について研究を行う計画である。(1) ミトコンドリア標的化GSTプローブTPPBNの細胞応用:令和2年度の検討において、TPPBNはMCF/mitoGSTP1におけるGSTP1活性を検出できることが示された。しかしながら、ミトコンドリアに局在した内在性GSTP1を持つ培養細胞系を見出すことができていない。一方、複数種のリコンビナントGSTを用いて選択性を評価したところ、TPPBN-1が高いGSTA2選択性を示すことが明らかとなった。これまでGSTA2に高い選択性で反応する蛍光プローブは知られていないことから、本プローブは新たな知見を与えるものと期待できる。そこで、当初の研究計画を変更し、本化合物はGSTP1ではなくGSTA2活性を検出する蛍光プローブとして細胞応用を行う。(2)Ps-CFなどの蛍光特性評価および生細胞におけるマルチカラーイメージングへの応用: Ps-CFがレシオ型蛍光プローブとして機能するためのメカニズムを解析する。具体的には蛍光団であるカルボフルオレセイン(CF)を用い、引き続きStern-Volmer 消光と蛍光寿命測定によって評価する。また、赤色GSTP1蛍光プローブPs-TMを市販の緑色蛍光プローブと併用したマルチカラーイメージングを行う。
当初計画の遅延による。次年度は、細胞を用いた応用の実験が必要であるので、物品費へ使用する。さらに、学会参加費や当該研究費によって得られた結果を投稿するための充てる予定である。
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