研究課題
本研究の目的達成には、arenastatin Aが結合する二種の標的タンパク質、すなわちチューブリンとEXD3に対してそれぞれ選択的に結合し、ラベル化するためのケミカルプローブの開発が必要である。現在、arenastatin Aの各種類縁体の合成と活性評価を進めており、初年度は、6位メチル基をヒドロキシメチル基へ変換した類縁体の合成と活性評価を検討した結果、天然物と比較して細胞毒性活性が低下することを明らかにした。今年度はまず、この結果と標的分子に対する結合との整合性を検証するために、すでに結晶構造が報告されているチューブリンとarenastatin Aとのドッキングスタディを検討した。その結果、6位メチル基がβーチューブリンの疎水性ポケットに結合しているドッキング図が得られ、この部位を修飾した類縁体で活性が低下した実験事実を裏付けるものとなった。また、昨年度の検討で6位ヒドロキシメチル体を合成した際に得られた副生物がエポキシドの立体異性体ではなく、これがさらに分子内閉環してテトラヒドロフラン環を形成した構造であることを明らかにした。これらの成果について学会発表を行った。さらに、新たな類縁体として、βーアラニン部分に置換基を導入した化合物の合成を検討し、環化前駆体まで合成を進めた。一方、修飾基内包型プローブを用いたラベル化研究の一環として、選択的セロトニン再取り込み阻害剤エスシタロプラムをアルキン修飾したプローブを合成し、その脳内局在を可視化することに成功したので、その結果を学会および論文にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
合成した類縁体の活性評価とドッキングスタディの解析結果から、チューブリンとの相互作用部位についてはある程度絞り込むことができた。新たな類縁体の合成も順調に進んでおり、チューブリンのラベル化実験についても検討を開始している。
引き続き類縁体合成を進めるとともに、得られた活性評価の結果等を勘案して、チューブリンおよびEXD3をそれぞれ選択的にラベル化できるアフィニティープローブの開発を目指す。標的分子との結合に影響を与えない部位に光反応性基を導入したフォトアフィニティープローブを合成し、光ラベル化することで、結合様式を解明する。また、ガン細胞選択的な増殖阻害剤の創製を目指した検討も引き続き進めていく。
従来の合成法の一部を変更し、高価な反応剤を使わずに同様の結果を得ることができるようになったため、物品費が当初の予定より少額に抑えられた。次年度は細胞やタンパク質を用いた化合物の評価が中心となるため、ここに有効活用することで、研究を進展させたい。
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JCI Insight
巻: 5 ページ: e133348
https://doi.org/10.1172/jci.insight.133348