本研究の目的達成には、arenastatin Aが結合する二種の標的タンパク質、すなわちチューブリンとEXD3に対してそれぞれ選択的に結合し、ラベル化するためのケミカルプローブの開発が必要である。それに向けてこれまで、arenastatin Aの各種類縁体の合成と活性評価を進めており、今年度は、β-アラニン部分に置換基を導入した類縁体の構造活性相関を検討した。前年度において、正常細胞に対する増殖阻害活性は天然物とほぼ同等でありながら、ガン細胞に対する細胞毒性のみが大幅に減弱した類縁体を見出したので、これを基盤として、置換基のサイズや官能基を種々変更した化合物を合成し、活性評価を行なった。その結果、置換基のサイズが大きくなるにつれて活性が減弱すること、細胞間の選択性については変化がないことが明らかになった。一方で、官能基をエステルからアミドへと変更することで完全に細胞毒性が消失することを見出した。活性が消失した類縁体については、分子の三次元構造が天然物と大きく異なっていることがNMR解析から明らかになり、今後の分子設計において重要な指針となる知見を見出すことができた。 また、将来的な医薬リード化合物への展開を見据え、大量スケールでの合成にも対応可能な合成法の確立に向けた検討を進め、エポキシドの立体選択的な構築が可能であることをモデル実験により検証した。従来法ではエポキシドの立体異性体をHPLCで精製する必要があったため大量合成が困難であったが、本研究によりこの問題点を克服できる可能性が示された。
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