研究課題
近年,地球規模での海水温の上昇や水質の変化が引き金となって,天然に自生する海藻(大型藻類)は激減し,海洋生態系全体に波及した海の砂漠化が深刻な問題となっている。このような背景のもと,大型緑藻類に分類されるアオサ藻に対して、その生育を促す葉状体形成促進効果が確認されたラブダン型ジテルペンの誘導体サルーシンに着目し、本化合物によって引き起こされる一連の発生・成長カスケードを分子生物学的見地から解明するため、その分子ツール合成を試みた。既に得られている知見を基に,サルーシンに特徴的なジピコリン酸由来のピリジン部にメチルアルコールを化学修飾した誘導体を合成し,アオサ藻網ヒビミドロ目に属するアオサノリに対して活性を評価した。その後,このメチルアルコール部位をリンカーとして,種々の機能性分子の修飾を試みた。この構造活性相関研究に基づいた分子生物学的なアプローチから,当初,本申請研究で目的とした磁気ビーズ担持型サルーシンをはじめ,新規蛍光標識型サルーシン,抗原抗体反応によるタンパク抽出を期待したビオチンおよび光感受性官能基を担持したサルーシンメチル誘導体の合成に成功した。本研究から得られた成果は,未だ明らかにされていない藻類生活環を解明するための分子ツール合成において重要な成果であり,有機合成化学からケミカルバイオロジー,藻類学(海洋生命科学)の分野まで広範囲に影響を与える基礎的知見でありインパクトの高い成果である。
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日本海水学会誌
巻: 75 ページ: 19~25
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