コメの生産を支える水田土壌肥沃度は,現在進行している大気CO2濃度の増加により確実に変化すると考えられるが,関連知見は絶対的に不足しており,将来予測に使用される物質循環モデルは高CO2の影響を加味していない。水稲の残渣に対して高CO2が与える影響,その残渣を通して土壌肥沃度に与える影響を精査し,現行モデルを改変することにより,将来予測の不確実性を低減することは,将来の安定的コメ生産に寄与すると考えられる。 本研究は次の2点を目的とした。1.高CO2が水稲の残渣(実際の高CO2圃場で採取したもの)に与える質的な影響を多品種で検証すること,2. 高CO2が水稲残渣を通して土壌肥沃度に与える影響を検証すること。 最終年度を延長して2021年度に継続した研究を実施した。とくに目的2の達成のため,室内にて土壌に各種残渣を添加した土壌培養実験を実施した。実際のイネ生産の圃場における分解を調査するため,収穫後の10月から翌年の代掻きの3月までのほぼ好気的環境で分解すると仮定し,温度20度,土壌水分は最大容水量の60%に設定し,180日間培養を行った。 その結果,残渣の分解率に対して影響が最も大きかったのは品種による違いであった。一方,高CO2の影響は,分解初期(0-28日目)でははっきりと表れず,分解後期(112日以降180目まで)において顕著に表れるようになったが,やはり品種による影響が大きかった。これまでに測定したリグニンやNSCなどの残渣の質のみでは,分解率を単純に説明することはできないことが分かった。今後は,残渣の質の違いと分解率の関係を数値式などで説明するための統計解析を実施し,さらに残渣中の各種元素(ミネラル)の量を測定し,その説明要素として機能するか調査する予定である。
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