研究課題
植物はリン欠乏にさらされると、生体膜を構成するリン脂質の大半を糖脂質に転換し、膜に含まれるリンをより重要な生体内の代謝系に利用する。これは、リン欠乏ストレスに順応すべく植物が持っている膜脂質転換気孔であることが、申請者らのこれまでの研究により明らかになっている。しかし、平成29年度までの申請者らの研究により、このリン欠乏時の膜脂質転換は、実は窒素欠乏時にも必須であること、またその際には、膜脂質転換の活性化に伴う葉緑体膜構造の維持がストレス耐性に深く関わっていることが示唆された。そこで本研究では、シロイヌナズナの膜脂質転換の活性化や制御に関わる各種酵素遺伝子の変異体や過剰発現体を用いて、リンや窒素など栄養ストレス下の植物生育における膜脂質転換活性化の生理的意義およびその分子メカニズムの解明を目指している。1.膜脂質転換が活性化したシロイヌナズナ形質転換体の作出と栄養応答の解析平成30年度は、PAHと同様、リン欠乏時のリン脂質分解に寄与するNPC5形質転換体の作出に着手した。NPC5タンパク質のN末端またはC末端に蛍光タンパク質を付加した融合タンパク質を過剰発現するようなコンストラクトを作成し、シロイヌナズナの膜脂質転換変異体2種類およびNPC5自身のノックアウト変異体に導入を完了し、引き続き形質転換体の単離を行っている。2.膜脂質転換制御に関わる新規因子の探索・単離平成30年度は、PAHは窒素欠乏時だけでなく、リン欠乏時にも葉緑体膜構造の維持に寄与している可能性があるかどうか調べた。その結果、リン欠乏時と窒素欠乏時のPAHの役割は異なる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、昨年度までに各種形質転換体の作出が終了したため。また、2については、網羅的遺伝子発現解析には着手できなかったが、その前に確認が必要であった基礎データが得られたため。
1.膜脂質転換が活性化したシロイヌナズナ形質転換体の作出と栄養応答の解析平成31年度は、各種形質転換体の単離を完了し、それぞれのリン欠乏や窒素欠乏に対する応答について表現型および脂質組成を中心に野生株とそれぞれのバックグラウンドとなった変異体と比較解析する予定である。2.膜脂質転換制御に関わる新規因子の探索・単離平成31年度は、通常条件または窒素欠乏条件で生育させた野生株、pah1pah2およびPAH1OEを用いて網羅的遺伝子発現解析を行う。
平成30年度中に行う予定であった網羅的遺伝子発現解析に必要な経費の一部が平成31年度(令和元年度)に持ち越されたため、次年度使用額が生じた。今年度は繰り越し分と合わせて、上記解析を進める予定である。
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Plant Physiology
巻: 177 ページ: 181-193
10.1104/pp.17.01573.