研究課題/領域番号 |
18K05371
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
下嶋 美恵 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (90401562)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | リン / 窒素 / 膜脂質転換 |
研究実績の概要 |
リン欠乏下の植物では、生体膜を構成するリン脂質を分解し、その代替を糖脂質が担う。これはリン欠乏時の膜脂質転換機構と呼ばれており、リン脂質分解により生じたリン酸を、核酸合成など、より重要な生体内の代謝系に利用するリン欠乏応答機構である。これまでに申請者らの研究グループは、このリン欠乏時の膜脂質転換の際のリン脂質分解において重要な役割を担っていると考えられているホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ(PAH)は、窒素欠乏下の植物生育にも重要な役割を担っていることを明らかにした。そこで本研究では、シロイヌナズナを中心としたモデル植物を用いて、植物の膜脂質転換の活性化や制御に関わる各種酵素遺伝子の変異体や過剰発現体を用いて、リンや窒素など栄養ストレス下の植物生育における膜脂質転換活性化の生理的意義およびその分子メカニズムの解明を目指して研究を行っている。 1.膜脂質転換が活性化したシロイヌナズナ形質転換体の作出と栄養応答の解析 PAHと同様、リン欠乏時のリン脂質分解に寄与するNPC5の各種過剰発現体(野生株またはPAH欠損変異体バックグラウンドなど)の作出と単離まではほぼすべて完了した。最終年度で、リンや窒素など栄養ストレス条件下での生育比較、膜脂質組成変化、遺伝子発現変化の比較解析を行う予定である。 2.ゼニゴケの膜脂質転換が担う栄養欠乏ストレス耐性 ゼニゴケPAH欠損変異体の作出、単離、栄養ストレス条件下での生育比較などを完了し、ゼニゴケにおけるPAHの役割について明らかにした(投稿準備中)。さらにゼニゴケにおけるNPCのノックアウト変異体作出を進めており、単離でき次第、リンや窒素などの栄養ストレス条件下での野生株と変異体での比較解析を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の4月~9月まで、コロナ禍による緊急事態宣言による大学の出校制限があったため、植物体の単離と維持を行うだけで精一杯となり、生育比較など、連続した日程での解析が必要となる実験を十分に行うことができなかった。そのため、解析自体は当初予定よりも遅れているが、シロイヌナズナについては植物材料は揃っているため、延長した令和3年度でまとまった研究成果が出るよう努力したい。また、ゼニゴケのPAHの機能解析については、令和元年度まででほぼ当初予定の研究成果が得られたため進捗に遅延はないが、まだゼニゴケの膜脂質転換の制御については不明な点が多く残されているので、令和3年度は引き続き研究を続ける予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナについては、比較解析する予定であった形質転換植物体について、作出、単離までほぼ完了しているため、令和3年度はリンや窒素などの栄養ストレス条件下における生育、膜脂質組成、遺伝子発現などの解析を順次進めていく予定である。また、ゼニゴケについては、変異体作出がまだ完了していないため、引き続き進め、変異体が単離完了し次第、シロイヌナズナ同様に解析を進める予定である。なお、ゼニゴケについては、すでに単離したPAH変異体との比較解析も進め、ゼニゴケにおけるPAHやNPCの機能分担について明らかにしたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による大学の出校停止期間があり、研究の推進に大きな支障が出た。最終年度に繰り越すことで、当初予定していたシロイヌナズナおよびゼニゴケの各種形質転換体の生育比較、膜脂質組成解析、遺伝子発現解析を行い、遅延した研究の推進のために研究費を使用する予定である。
|