研究課題
水田において、土壌中の鉄の酸化還元状態の変化は、土壌EhとpHを決定する重要な要因であるとともに、有機物分解を中心とした物質代謝反応にも深く関わっている。本研究では、土壌中の鉄の酸化還元状態の変化と微好気性鉄酸化細菌の群集動態の関係性および微好気性鉄酸化細菌の鉄酸化特性を明らかにし、水田生態系の鉄酸化反応における微好気性鉄酸化細菌の役割を位置付けることを目的としている。本年度は、微好気性鉄酸化細菌の鉄酸化特性を明らかにすることを目的として、水田土壌から分離された微好気性鉄酸化細菌Ferrigenium kumadai An22株と新たに水稲根より分離したNRt1株とNRt3株を対象に、菌の生育とともに形成された鉄酸化物の構造的特徴を分析した。菌の生育とともに、全ての株の培養液において不定形の粒子状の沈殿物が主に観察されたが、それらとは別に、NRt1株とNRt3株の培養液では樹枝状物質もわずかに観察された。SEM-EDXによる分析から、樹枝状物質は複数の細い糸状物質から形成されていること、粒子状沈殿物、樹枝状物質を問わず、鉄、酸素、リンが主に集積していることが示された。ただし、細胞の多くは粒子状沈殿物中に観察されたため、樹枝状物質の生成と鉄酸化反応の関係についてはさらなる解析が必要であった。このほか、An22株の生育とともに形成された鉄酸化物のX線吸収微細構造(XAFS)分析による解析を試み、菌が増殖した部位にFe(III)が集積していることを示すデータを得た。また、EXAFS領域に注目するとフェリハイドライトのスペクトルと比較的類似していた。しかし、非生物的に形成された鉄酸化物との間には顕著な違いが見られなかったため、今後、培養方法、鉄酸化物の回収時期、方法も含めて検討を行い、さらなる比較を行う必要があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
初年度に分離菌株を用いて鉄酸化特性を解析することを計画していた。SEM-EDXにより鉄酸化細菌株に特徴的な樹枝状物質を観察することができ、生成した鉄酸化物のXAFS分析も試みることができた。また、次年度以降に計画をしている微好気性鉄酸化細菌の群集構造解析のための土壌試料の採取も進めている。XAFS分析については培養方法、鉄酸化物の回収時期、方法などを検討して次年度も行う必要があるが、全体としておおむね順調に進展していると判断した。
初年度に、分離菌株を用いたSEM-EDX解析およびXAFS分析を試み、特徴的形状の樹枝状物質の生成や、形成された鉄水酸化物に関する情報を得ることができた。今後は、樹枝状物質の生成と鉄酸化の関係性を明らかにして行くとともに、菌株の培養方法や鉄水酸化物の回収方法などについてもさらに検討し、非生物的に形成された鉄水酸化物との比較を進めていくことを計画している。また、これまでに管理体系の異なる水田圃場より採取した土壌試料、および新たに水田圃場より経時的に採取する土壌を解析に用いる。これらの土壌試料よりDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子を対象とした分子生態学的手法を用いて微好気性鉄酸化細菌の群集構造解析する。加えて、室内モデル実験により、土壌中の一連の鉄の酸化・還元過程の変化に伴う微好気性鉄酸化細菌の群集構造の変化を、同じく分子生態学的手法により追跡し、圃場レベルでの群集動態を補足する知見を得る。以上の分離菌株を用いた解析、室内モデル実験および圃場調査を通じて、水田生態系の鉄酸化反応における微好気性鉄酸化細菌の役割を位置付ける。
当初の計画通り、2018年度に、鉄酸化細菌が生成した鉄酸化物のXAFS分析をあいちシンクロトロン光センターにて分析した。しかし、予備検討試験をシンクロトロン光センターの技術補佐員が代わりに行なってくれたこともあり、複数回の分析の予定が1度のみの分析となった。ただし、2019年度も引き続きXAFS分析を行うことを計画しており、差額分は主にXAFS使用料やXAFS分析用の試料調製に用いる消耗品代に使用する予定である。
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