研究課題
植物は、一部の根で栄養欠乏を感知した際、他方の根から相補的に吸収することで、個体全体として取り込み量を最適に保つシステムを保持している。植物は、窒素と同様に、鉄イオンの局所的な欠乏に対しても、このシステムを持っている。しかし、その制御機構は明らかになっていない。本研究では、土壌中の不均一栄養環境を模倣したSplit-root培養法を利用したトランスクリプトーム解析を通して、鉄欠乏に応答した根―葉-根間の長距離シグナル伝達機構を明らかにすることを目的としている。これまで、シロイヌナズナSplit-root鉄欠乏培養法を用いた時系列トランスクリプトーム解析から、葉から根へ移動して鉄吸収を活性化する器官間移動性の候補分子として「分泌型システインリッチペプチド(CRP)」と「鉄結合タンパク質(IRON MAN; IMA/FEP)」を同定してきた。CRPは、ゲノム上で4遺伝子がタンデムに存在していたため、DNA修復関連変異体を用いたCRISPR/Cas9の系を開発して、ターゲット領域にLarge deletionを引き起こし、多重変異体の作成に成功した。しかしこの破壊株では、Split-root鉄欠乏処理による鉄トランスポーターIRT1の相補的な発現量上昇は野生型と同様に起こっていた。いっぽうで、crp多重破壊株では、鉄吸収に関わるクマリン生合成遺伝子の発現量が低下していた。また、IMA多重変異体では、Split-root鉄欠乏処理時において、IRT1の相補的な発現量上昇は全く起こらなかった。そして、シロイヌナズナ接ぎ木実験の結果から、IMAは地上部で発現誘導されることで、地下部(根)の正常な発達やIRT1の発現を制御していることが明らかになった。つまり、IMAが葉から根への器官間を移動して根における鉄吸収を制御するシグナル分子である可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまで、シロイヌナズナSplit-root鉄欠乏培養法を用いた時系列トランスクリプトーム解析から、葉から根へ移動して鉄吸収を活性化する器官間移動性の候補分子として「分泌型システインリッチペプチド(CRP)」と「鉄結合タンパク質(IRON MAN; IMA/FEP)」を同定してきた。Split-root鉄欠乏処理実験や接ぎ木実験の結果から、IMAが葉から根への器官間を移動して根における鉄吸収を制御するシグナル分子である可能性が強く示唆されるとともに、CRPに関しても鉄吸収を促進するクマリン生合成系の遺伝子発現制御に関わる可能性がみられたため、局所的な鉄欠乏に誘導される長距離シグナル制御因子を単離できた点で順調であると考えられる。
今後は、化学合成したCRPおよびIMAペプチドの添加実験による機能解析を行うとともに、イメージング解析を通してGFP-CRPおよびGFP-IMA融合タンパク質が実際に葉から根へ移動する様子を観察していく予定である。移動性が検証された際には論文化を進める。また、CRPやIMAがどのようなメカニズムで鉄吸収に関わる因子群の転写量を正に制御しているか明らかにするため、タンパク質相互作用因子を探索する。
新型コロナウイルス感染症拡大にともない、計画していた実験ができなくなってしまったため、次年度に繰り越しさせていただいた。
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