研究課題
植物は、土壌中の根の一部が局所的な鉄欠乏におちいったとき、周りに十分な鉄が存在する根にその情報を伝え、鉄吸収を相補的に促進させることで、個体全体の鉄含量を一定に保つ巧みなシステムを持つ。しかしながら、その器官間コミュニケーションを制御する分子実態はこれまで明らかにされていなかった。そこで、不均一な土壌環境を模倣したSplit-root培養法を用いた時系列トランスクリプトーム解析から、鉄欠乏に応答した根ー葉ー根間の長距離シグナルのメカニズムを明らかにすることを目的とした。シロイヌナズナを用いたSplit-root鉄欠乏処理実験による時系列RNA-seq解析から、一部の根が鉄欠乏条件下に晒されると、他方の根において鉄イオントランスポーター(IRT1)や還元酵素(FRO2)、および、鉄吸収を促進するクマリン合成に関する遺伝子(S8H, CYP82C4)の発現量が相補的に増加した。また、葉から根へ移動して鉄吸収を活性化する器官間移動性の候補分子として「鉄結合タンパク質(IRON MAN; IMA/FEP)」を同定した。IMA多重変異体では、Split-root鉄欠乏処理時において、IRT1の相補的な発現量上昇は全く起こらなかった。また、シロイヌナズナ接ぎ木実験の結果から、IMAは地上部で発現誘導されることで、地下部(根)の正常な発達やIRT1および、シデロフォア合成(クマリン合成)系の遺伝子発現を制御していることが明らかになった。つまり、IMAが鉄欠乏に応答した長距離シグナリングを制御する、葉から根への器官間を移動して鉄吸収やクマリン合成を活性化するシグナル分子である可能性が強く示唆され、(Tabata et al., Plant Cell Physiology 2022)。
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Plant Cell Physiology
巻: - ページ: -
10.1093/pcp/pcac049
PLoS ONE
10.1371/journal.pone.0266982
Plant Physiology
巻: 188 ページ: 2364-2376
10.1093/plphys/kiac025