本研究では,シロイヌナズナのファイトケラチン合成酵素AtPCS1の機能欠損変異株cad1-3の解析を基礎として,ヒ素,カドミウム,水銀化合物などの有害金属が植物の根端分裂組織(メリステム)に及ぼす毒性と植物側の防御の分子メカニズムの理解を進めることを目的としてきた。その結果,根端の細胞周期とオーキシン恒常性の撹乱が水銀化合物の毒性の特徴として示唆され,AtPCS1依存的なファイトケラチン合成が防御システムとして機能する可能性が示されてきた。最終年度は(1)オーキシン輸送体への水銀化合物の影響と根端のオーキシン分布,(2)水銀化合物によるAtPCS1依存的ファイトケラチン合成の誘導のin vitroでの検証,(3)ファイトケラチンと水銀化合物の結合性の検証に焦点を当てた。(1)については,オーキシン輸送体のマーカー系統(pPIN1-PIN1-GFP,pPIN2-PIN2-GFP,pPIN3-PIN3-GFP)およびオーキシンのレポーター系統(DR5rev:GFP)の顕微鏡観察を実施した。無機水銀処理とフェニル水銀処理を比較すると,フェニル水銀特異的に根端のPIN1,PIN2,PIN3の発現低下が観察され,連動してオーキシンレベルが低下した。無機水銀ではPIN3の発現低下が観察されたものの,根端のオーキシンレベルは上昇傾向を示した。(2)について,AtPCS1の組換えタンパク質を大腸菌から精製し,水銀化合物に応答したPCS活性を調べたところ,フェニル水銀によってもPCS活性は誘導され,in plantaでの結果を支持した。(3)については前年度までに確立したペプチド担持ビーズを用いてファイトケラチンと水銀化合物の結合性試験を行い,フェニル水銀が無機水銀と同様のファイトケラチン親和性を示すことを明らかとした。
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