本年度は、乾燥ストレスにおけるリン酸欠乏応答とABAシグナルの関係について、昨年度までに解析を実施している遺伝子発現データに加えて、リン酸含量やABA含量の定量を実施した(ABAの定量は理研との共同研究により実施)。その結果、リン酸含量は、乾燥ストレス処理の初期段階から減少することを明らかにした。一方で、ABA含量は、リン酸含量が減少するタイミングより遅れて、乾燥の程度によって上昇することを明らかにした。このリン酸含量とABA含量の変動の結果は、遺伝子発現と連動しており、マイルドな乾燥ストレスが進行する際に、リン酸欠乏応答がABA応答に先行して生じることを明らかにした。また、リン酸欠乏応答が欠損した多重変異体を用いた解析から、乾燥ストレス条件下におけるリン酸欠乏応答の誘導の生理学的意義が示唆された。得られた結果をまとめ、論文の再投稿を行なった。 本研究課題では、圃場で乾燥ストレスを受けたダイズを用いた解析により見出した「乾燥ストレスとABAシグナルやリン酸欠乏応答」の関係を解明するため、シロイヌナズナを用いて、マイルドな乾燥ストレス応答の詳細な解析を実施した。これにより、実験室内のシロイヌナズナにおいても、圃場のダイズで見出した”乾燥ストレスによるリン酸欠乏応答の誘導”が再現され、植物種や土壌の種類などに依存しない普遍的な現象であることを示した。また、遺伝子発現に加えて、リン酸とABA含量の解析から、進行性のマイルドな乾燥ストレス条件において、リン酸欠乏応答が、ABA応答先行して誘導されることを明らかにした。さらに、リン酸欠乏応答シグナルを欠損した多重変異体の解析から、マイルドな乾燥ストレス時にリン酸欠乏応答が誘導される生理学的意義を提唱することに成功した。
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