研究課題
微生物による物質生産において、設計(design)した生合成経路を、生体内で構築(build)・発現し、得られた目的物を定量(test)し、比較・学習(learn)することで生産条件を改善し、このサイクルを繰り返すことによりその最適化が行われる。この一連の流れにおいて目的物の定量(test)は、微生物の破砕、抽出、機器分析といった多段階プロセスに時間と労力を要するため、多くの物質生産の最適化における律速段階となっている。そのため、迅速、簡便な定量(test)の方法の開発により、生物による物質生産研究の最適化を飛躍的に加速させる技術を提供できる。実際に、大腸菌内で生成した長鎖アルデヒドの量に応じて発光する大腸菌の開発を行い、長鎖アルデヒドを生成する酵素(AAR)の変異体(約2000種)の活性評価を1週間程度で行い、最終的には発光量が4倍ほど向上した変異体の取得にも成功している。本年度は、上記の実績を元に、当初目的としていた次世代バイオ燃料と医薬品の原料となるアルデヒドの生成に応じて発光する大腸菌の開発を進めてきた。細胞内でのアルデヒド生成に必要な生合成経路の設計(design)、生合成経路の発現に遺伝子群を組み込む必要なベクターの構築といった準備を進めてきた。それと並行して、上記とは異なるアルデヒドとして、食品に添加可能な香料となるアルデヒドや、酸化ストレスマーカーとなるアルデヒド、細胞の分化に関わるアルデヒドの細胞内検出の可能性についての実験条件検討を行い、各種アルデヒドの細胞内生成に応じて発光する大腸菌の開発を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、各種アルデヒドの生合成経路の設計と、その発現ベクターの構築を進めていた。並行して、次世代バイオ燃料や医薬品の原料となるアルデヒドだけでなく、香料や酸化ストレスマーカーや細胞の分化に関わる様々なアルデヒドを検出可能性について調べた。大腸菌にて発光に関わる酵素を発現し、その大腸菌培養液の外部から上記のアルデヒド類を添加し、添加量に応じて大腸菌の発光量が得られるか調べた。本来の基質ではないアルデヒドに対して発光を示すものもあり、こうしたアルデヒドの細胞内生成をリアルタイムにかつ、非侵襲的な手法で検出できることが明らかとなった。さらには、こうしたアルデヒドの生成に関わる酵素の活性評価にも利用できることから、物質生産の最適化を加速させる技術になり得ることを実験的に示した。発光応答が得られないアルデヒドに関しては、基質になりえない可能性や、そもそも大腸菌の細胞膜を透過できない可能性も考えられることから、十分な精査が必要となった。しかしながら、前者の場合、蛋白質の進化分子工学的手法を用いて、発光酵素の基質改変も可能であることから、新たな研究展開を示唆する結果となった。
本年度に引き続き、大腸菌で種々のアルデヒドの生合成経路の設計とその発現ベクターの構築を進め、各種アルデヒドの細胞内生成量に応じて発光する大腸菌に開発を進める。次に、アルデヒド生成における律速反応となる酵素に着目し、その変異体集団を作成し、強い発光を示す大腸菌を選択することで、律速段階にある酵素の高活性変異体の創出を目指す。
本年度に購入予定していた大型機器である、冷却遠心機について、競合メーカーによる競争と、付随する代理店による相見積もりを取ることで、かなり安く購入することができたため、その分残る結果となった。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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