微生物による物質生産を行うには、膨大な実験条件を試行し、目的生成物の収量が最大化する条件を探索(最適化)する。必要であれば、物質生産に関わる酵素の変異体ライブラリを発現し、高活性変異体を創出する。最適化プロセスや、高活性変異体の探索において、目的生成物の定量には、細胞培養液の破砕、溶媒による抽出、測定機器による定量といった多段階プロセスに多くの時間と労力を要するため、最適化プロセスや高活性変異体酵素の探索の律速段階となっている。本研究では、大腸菌培養液中の目的生成物の生成量を、外部から発光量として、非侵襲的、かつ、リアルタイムに評価できる系を開発し、目的物生成量の定量を超高速・超簡便にするセンサー大腸菌の開発を目指してきた。 2022年度は、2021年度から引き続き、目的物質を生成する人工遺伝子回路の設計と構築の準備を進めてきた。一方で、センサーに使用する酵素の基質特異性は低く、汎用性に富むことは確認できていたが、目的生成物に対する発光強度を改善が必要であることが示唆されており、本年度はセンサー酵素の発光強度の改善を進めるべく、進化分子工学的手法によるセンサー酵素の高発光変異体創出を飛躍的に加速する超高速活性評価法(非侵襲、かつ、リアルタイム評価)の設計は完了し、現在、その構築を進めている。 この他に、白血病のcMyb-KIXのタンパク質間相互作用を阻害するために、タンパク質の立体構造予測に基づいた、13種の変異体ペプチドライブラリ(cMyb変異体)を構築した。非常に限られた変異体ライブラリサイズにも関わらず、既存の阻害剤よりも高い阻害能を示す変異体ペプチドの創出に成功し、原著論文として発表した。また、本研究の立案のきっかけとなった、バイオ燃料として期待されるアルカン(軽油相当)を生成する2つのタンパク質の高機能化に関するこれまでの研究を総説として国際専門誌に発表した。
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