研究課題/領域番号 |
18K05388
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小笠原 寛 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 助教 (30535232)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | Escherichia coli / Oxidative stress / Two-component system / HprS/R / Hydrogen peroxide |
研究実績の概要 |
H30年度は当初計画通り、(1)センサーキナーゼHprS活性化に影響を与えるアミノ酸残基の決定、(2)HprSホモログを過酸化水素応答に利用する細菌種の同定およびHprSホモログ共通の機能的モチーフの探索、(3)新規酸化的損傷タンパク質修復酵素の探索およびHprR結合共通配列をプロモーター上に有する酸化還元酵素遺伝子の過酸化水素応答機構の解明を目指した。(1)についてはHprS活性化に影響を与えるアミノ酸残基を決定するために、ランダム変異導入法を用いた変異型HprS発現プラスミドコレクションの構築を行った。また、大腸菌ゲノム上でHprS/R系の標的であるhiuHプロモーター領域をlacZと融合させたレポーター株に、これら変異型HprS発現プラスミドコレクションを導入し、hiuH発現への影響を調べることでHprS活性化に重要なアミノ酸残基の特定を試みた。(2)については、大腸菌HprSアミノ酸配列についてBLAST検索を行い、マルチプルアライメント解析から、HprSホモログ間で強く保存される共通アミノ酸配列等について調べた。また、これらHprSホモログのアミノ酸配列情報を用いて分子系統解析を実施した。(3)については、レスポンスレギュレーターHprR結合コンセンサス配列をプロモーター上に有する酸化還元酵素遺伝子、および酸化ストレス応答に関わる転写因子をコードする遺伝子について、これら遺伝子のHprS/R依存性、およびこれらプロモーター領域に対するHprRの結合の有無を確認するために遺伝子発現解析を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究概要の実績に示したH30年度の当初計画(1)~(3)に沿って研究を実施した。(1)ではError-prone PCRを用いたランダム変異導入法により調製した変異型hprSを含むDNA断片を、In Fusionクローニングによりアラビノース誘導プロモーターを有するpBAD24ベクターに導入した変異導入hprSライブラリーを得た。現在、このライブラリーをhprSを欠損した大腸菌hiuH-lacZレポーター株に導入後、X-galを含むLB寒天培地上で得られるコロニー色の変化について、野生型HprS高発現プラスミド、およびC165A変異HprS高発現プラスミド導入株との比較検討を行っている。H31年度についてもコロニー色に顕著な変化が確認される変異体については、プラスミドDNAを回収し、シーケンス解析により変異部位の特定を行う。(2)については大腸菌HprSのホモロジーサーチを行い、マルチプルアライメント解析を実施した結果、大腸菌の4つのCys残基(C165、C172、C333、C338)のうち、H2O2応答に必要なC165に対応するアミノ酸についてはその他の細菌種ではCysまたはSerのケースが多く、C172に対応するアミノ酸についてもCysの割合が多いが、C333、C338に対応するアミノ酸についてはCysの保存性が低いことを見出した。また、C165, C172のどちらか一方がCys以外の場合、G22に対応するアミノ酸がCysになっているケースが多いことを確認した。(3)については遺伝子プロモーター上流域にHprR結合コンセンサス配列を有する機能未知酸化還元酵素ydeP、酸化ストレス応答転写因子をコードするgadEについて転写解析を進めているが、これら発現制御には複数の転写因子が関与しているため、今後はそれら影響も含めHprS/Rの役割について明らかにしていく計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
細菌のペリプラズム空間における酸化ストレスモニター機構、および酸化的損傷タンパク質修復機構の解明を目的として、H31年度は(1)ペリプラズム過酸化水素センサーHprSの活性化に関わる分子メカニズムの解明、(2) HprS/HprRホモログの進化と機能解明、(3)ペリプラズム領域において機能する新規酸化的損傷タンパク質修復機構の探索と機能解明を目指し以下の研究を実施する。(1)については、平成30年度に構築した変異導入hprSライブラリーを用いて、引き続きHprS活性化に影響を与えるアミノ酸残基の探索を行い、選択された変異型HprSについて、自己リン酸化能への影響、およびホモダイマー形成への影響等について調べる。(2)については、マルチプルアライメント解析から見出されたHprSホモログに強く保存される共通アミノ酸配列および機能的モチーフについて、(1)の変異導入解析結果と関連付けて解析を進め、HprSホモログの2つの膜貫通領域[TM1, TM2]のCys残基の高濃度過酸化水素応答における役割について明らかにするために、大腸菌HprS以外にサルモネラ菌CopSを始め、複数種のHprSホモログについて分子生物学的手法による機能解析を開始する。(3)については H30年度に引き続きydeP, gadEについて遺伝子発現解析を進め、さらにHprR結合コンセンサス配列をプロモーターに有するその他HprR標的候補遺伝子についても解析を進める予定である。
|