これまでに開発に成功したAcaryochloris marinaでのCRISPR干渉をもちいてさらに研究を進めた。昨年度までは、ヌクレアーゼであるCas9からDNase活性を除いた変異体タンパク質のdCas9を利用したCRISPR干渉により、光合成での光捕集に機能するアンテナタンパク質であるフィコシアニンの遺伝子の発現制御をおこなった。さらに、フィコシアニン遺伝子の抑制を指標にして発現抑制の程度の異なるCRISPR干渉ベクターの開発も進めてきた。そこで、本年度は光合成に関連するいくつかの遺伝子を標的として、CRISPR干渉による遺伝子発現抑制で表現型が現れる条件を検討した。その結果、遺伝子破壊ができないと考えられた遺伝子では発現抑制をかなり抑えても形質転換株が得られなかった。この遺伝子については、より発現抑制の程度を下げることで形質転換株が得られるようになるのかを今後検証する必要がある。また、かなり強く発現を抑制しても予想される表現型がみられない遺伝子も存在した。このように相同性などから機能を容易に推定できる遺伝子を対象にしても、CRISPR干渉により機能を解析することが難しい場合があることが判明した。また、フィコシアニン遺伝子がCRISPR干渉ベクターの開発に適していたことが結果として確認された。しかし、いくつかの遺伝子については予想される表現型を得られる条件を見いだせたので、CRISPR干渉がA. marinaを対象とした逆遺伝学による解析で有用であることには変わりないといえる。
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