研究課題/領域番号 |
18K05390
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木谷 茂 大阪大学, 生物工学国際交流センター, 准教授 (10379117)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 抗生物質生産 / 放線菌 / 二次代謝シグナル / 休眠二次代謝 |
研究実績の概要 |
放線菌は、多くの二次代謝クラスターを保有するにもかかわらず、このクラスターの9割が休眠状態にある。これらの潜在能力を活用できれば、新たな生理活性物質を、限定された生物資源より発見できる。本研究では、二次代謝シグナル系を操作して、放線菌の休眠二次代謝能を包括的に覚醒させ、新規有用物質を創出することを主たる目的とする。 昨年度は、ブテノライド型シグナル活性を示すStreptomyces bambergiensisの二次代謝系に着目した。シグナル合成酵素と推定される遺伝子を破壊した菌株では、複数の代謝物の生産性が変化する現象を観察した。そこで、本遺伝子破壊株に、当該酵素遺伝子を再導入した結果、遺伝子相補株の代謝物プロファイルは、野生型株のものと類似したことより、これらの代謝物変動は、本酵素遺伝子に起因することが分かった。次に、野生型株を液体培養し、その有機溶媒抽出物を酵素遺伝子破壊株に添加したが、代謝物プロファイルに大きな変化は観察されなかった。したがって、これらの変動代謝物は、シグナル分子の調節を受けるのではなく、酵素遺伝子の代謝物である可能性が示唆された。2つ目の研究として、Kitasatospora setaeの低生産性物質であるβ-カルボリン化合物キタセタリンに着目した。これまでに、キタセタリン生合成遺伝子を異種発現させた放線菌株を活用し、新規トリプトリン化合物を創出した。そこで、同様の戦略にて、基質アナログを異種発現株に添加したところ、新規β-カルボリン化合物の創出に成功した。これら新規化合物のの生理活性を評価したところ、ある種のガン細胞に増殖阻害活性が検出された。また、二次代謝シグナル産生菌を各種培地にて培養した結果、ポリエン系化合物と推定される化合物ピークを検出した。したがって、培養条件の最適化により、新たな二次代謝系のスイッチがオンになったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次代謝シグナル酵素遺伝子が関与する化合物を見出したこと、また潜在覚醒化物質の生合成系を活用して、非天然型の生理活性分子を創出したこと、培養条件の最適化が新たな二次代謝系を覚醒したことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
S. bambergiensisの酵素遺伝子が関与する代謝物の構造を同定し、その詳細なシグナル機構を明らかにする。キタセタリン生合成酵素のホモログを見出したことから、異種発現系を活用し、酵素ホモログが産み出す代謝物を解析する。二次代謝シグナルスイッチがオンになった菌株が生産するポリエン系化合物の構造を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に、代謝物解析に使用するHPLCの1台が故障し、HPLC備品の購入を延期した。今年度は、HPLC故障を修理したため、HPLC接続のダイオードアレイ検出器を購入したが、HPLC運用に伴う物品費に余剰が生じた。最終年度に、この余剰物品費を有効に使用する予定である
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