研究課題/領域番号 |
18K05393
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
戒能 智宏 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (90541706)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | コエンザイムQ / 分裂酵母 |
研究実績の概要 |
コエンザイムQ10(CoQ10)は、ミトコンドリアにおける電子伝達機能の他に、近年、脂質の過酸化防止機能を有する脂溶性抗酸化物質としての働きや、硫化物の代謝、ピリミジン合成などの新たな機能の発見に注目が集まっている物質である。CoQが欠損すると、植物では胚性致死を示し、動物では胎生致死を示すことが報告されていることから、CoQは非常に重要な成分である。 Schizosaccharomyces属の分裂酵母のうち、S. pombeはモデル生物として広く基礎研究で使われており、私たちの研究室ではS. pombeのCoQ欠損株が、最少培地での生育遅延、酸化ストレス感受性、毒性の高い硫化水素の発生など、特徴的な表現型を示すことを明らかにしてきた。分裂酵母の中でもS. japonicusはCoQが検出されないと報告されているため、実際にS. japonicusからCoQ抽出を行ったところ、極微量ではあるがCoQ10が検出された。 そこで、本年度は、S. pombeのCoQ欠損株とCoQ量が極微量であるS. japonicusの表現型を詳細に解析した。その結果、S. japonicusはグリセロールを炭素源とする非発酵性培地では生育せず、酸素消費量もごくわずかでS. pombeのCoQ欠損株と同様の性質を示した。一方、過酸化水素やパラコートなどの酸化ストレス条件では、S. pombeのCoQ欠損株よりも強い酸化ストレス感受性を示し、ほとんど硫化水素も発生していないことが分かった。また、嫌気条件下では栄養豊富な培地でも特にS. pombeのCoQ欠損株は生育が悪くなるのに比べて、S. japonicusはその生育が好気条件とほとんど変わらなかった。 以上の結果から、S. japonicusはCoQ量が極微量であるが、S. pombeのCoQ欠損株 とは異なる表現型を示すことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コエンザイムQ10(CoQ10)は、ミトコンドリアにおける電子伝達機能の他に、脂溶性抗酸化物質としての働きや、硫化物の代謝、ピリミジン合成などの新たな機能の発見に注目が集まっている物質である。 モデル生物として広く使われているS. pombeに比べて、研究例の少ないS. japonicusの最大の特徴はCoQが検出されないと報告されていることであるが、実際にS. japonicusからCoQ抽出を行ったところ、極微量ではあるがCoQ10が検出された。そこで、本研究では、CoQ量が大きく異なる2種類の分裂酵母S. pombeのCoQ欠損株とCoQ量が極微量であるS. japonicusの表現型を詳細に解析し、S. japonicusは非発酵性培地では生育せず、酸素消費量もごくわずかでS. pombeのCoQ欠損株と同様の性質を示すことを明らかにした。一方、酸化ストレス条件では、S. japonicusは強い酸化ストレス感受性を示し、ほとんど硫化水素も発生していなかった。また、嫌気条件下では栄養豊富な培地でもS. japonicusはその生育が好気条件とほとんど変わらず生育することなど、新しい知見を見出した。また、S. japonicusは形質転換効率が非常に悪いが、CoQ合成酵素遺伝子を破壊することによってCoQを欠損したS. japonicus株を作製した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、CoQ量が極微量のS. japonicusの表現型を詳細に解析し、S. pombeのCoQ欠損株 とは異なる表現型を示すことが明らかになった。また、CoQ合成酵素遺伝子を破壊することによってCoQを欠損したS. japonicus株を作製することができた。そこで、次年度はS. japonicusのCoQ欠損株を用いて様々な表現型を解析し、極微量ながら存在するCoQによって表現型にどのような影響があるかを解析していく。また、S. pombeのCoQ欠損株で影響を受けるCysの量やグルタチオンの量など、代謝系における影響や、抗酸化系における影響についての検討も行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の経費は順調に使用しているが、若干の残額が発生している。無理に使用することなく、次年度の消耗品の購入に充てる予定である。
|