研究課題/領域番号 |
18K05394
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
後藤 正利 佐賀大学, 農学部, 教授 (90274521)
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研究分担者 |
小林 元太 佐賀大学, 農学部, 教授 (40291512)
二神 泰基 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (60512027)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Aspergillus luchuensis / Citric acid / transporter / carrier protein / organic acid production |
研究実績の概要 |
白麹菌 (Aspergillus luchuensis mut. kawachii) は焼酎の製造に用いられ、菌体外に多量にクエン酸を生産する特徴を有する。本研究では、白麹菌のクエン酸高生産機構を明らかにするために、特にクエン酸生合成系の最終段階である細胞膜からの細胞外へのクエン酸の排出に関与する輸送体の同定と、A. luchuensis で未同定の有機酸輸送体タンパク質をコードする遺伝子の同定を目的とした。 昨年度に、白麹菌のAKAW_07989がコードする推定クエン酸輸送体 (cekA)が細胞外へのクエン酸の排出に関与する主要な因子であると推定した。本年度は、クエン酸の排出を抑えるcekA 破壊株を利用した、白麹菌によるイタコン酸生産能の強化を行なった。これまでに構築した A. itaconicus 由来の cis-アコニット酸脱炭酸酵素遺伝子を導入したイタコン酸生産性白麹菌株のcekA を破壊した。その結果、コントロール株(cekA+)に比べ、1.5 倍のイタコン酸生産量を示した。一方、昨年度構築した14の推定細胞膜有機酸輸送体遺伝子破壊株のうち、AKAW_03290破壊株が、クエン酸生産量が減少するためクエン酸輸送体候補として報告したが、有機酸生産量についての実験再現性が認められなかった。そこで、14の推定細胞膜有機酸輸送体破壊株の中からAKAW_02172破壊株が野生株に比べ、培地中のクエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸の量が有意に減少し、フマル酸の量が有意に増加することを見出した。 AKAW_02172タンパク質の局在解析と機能予測を行なった結果、有機酸輸送体ではないが、ミトコンドリアのプロトンポンプを構成するユビキノールシトクロムCレダクターゼであると同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度中にクエン酸を高生産するAspergillus 属糸状菌の推定クエン酸輸送体の同定が本研究を含めて3件相次いで報告された。本研究では、同定されたcekA破壊株を用いると細胞外へのクエン酸排出を抑制して、クエン酸から、cis-アコニット酸、イタコン酸への合成が強化できるのではと考え、早速得られた情報を用いて、菌株改良に利用した。代謝酵素の改変ではなく、輸送体のコントロールで物質生産を増強できることを実証できた。有機酸輸送体の同定については、有機酸生産量が実験ごとにばらつき、適正な統計処理を行うことに注意を払った。AKAW_02172は研究目的の細胞膜局在性有機酸輸送体の可能性は低いが、ミトコンドリア局在のプロトンポンプを構成するユビキノールシトクロムCレダクターゼであることを初めて実証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
14の推定有機酸遺伝子の輸送体の有機酸生産量の測定は、ばらつきが多く、再現性に乏しい。このことは白麹菌が生産するほとんどの細胞外有機酸がクエン酸であることに起因すると考えられる。そこで、クエン酸を排出しない推定クエン酸輸送体(cekA)破壊株を宿主として、AKAW_02172以外の13の輸送体を高発現させて、有機酸生産量の変化を比較することで、各推定有機酸輸送体の輸送物質の推定が可能になるものと思われる。有機酸生産量に変化が見られた破壊株の破壊遺伝子については、局在解析、破壊株の再調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の新型コロナウィルス感染症への対応のため、当初予定した計画の進行に遅延が認められたため、次年度使用額が生じた。次年度では、使用量が多く、不足している試薬の補填に使用する。
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