研究課題/領域番号 |
18K05395
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研究機関 | 公益財団法人地球環境産業技術研究機構 |
研究代表者 |
肥後 明佳 公益財団法人地球環境産業技術研究機構, その他部局等, 研究員 (20790249)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 合成生物学 / シアノバクテリア / 代謝改変 / 物質生産 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアは光合成能を持ち、食糧生産と競合しないことから、バイオ燃料などの物質生産ホストとして注目を集めている。このため、近年急速に遺伝子発現制御による代謝改変技術が発達してきた。一方、シアノバクテリアは酸素発生型の光合成を行うため、嫌気発酵による物質生産は不得手であった。本研究では、数百の細胞が数珠状につながり、細胞内が嫌気的に保たれ窒素固定を専門に行うヘテロシストが約10個に1個の割合で分化するAnabaena sp. PCC 7120をホストとする。光合成を行う栄養細胞と嫌気発酵を行うヘテロシスト細胞の、2種類の細胞による代謝分業により、効率的な物質生産を目指す。一昨年度までに、CRISPRi遺伝子発現抑制法を応用した遺伝子発現ネットワークを構築して、ヘテロシスト特異的な遺伝子発現抑制系を構築し、ヘテロシストによるエタノール生産性を改善した。昨年度は、物質生産の場とするヘテロシスト細胞の新たな分化制御因子を見出した。転写因子をコードし、必須遺伝子でありこれまで解析が困難であったcyabrB1をCRISPRi法でノックダウンすると、窒素源存在下でもヘテロシストを形成した。cyabrB1ノックダウンにより、ヘテロシスト形成を促進するhetPやhepA遺伝子が誘導されたためであると推測された。窒素源存在下でヘテロシストを形成できることは、多大なエネルギーを要する窒素固定反応を行わずに目的物質の生産へとつなげられる。Anabaenaの細胞分化、代謝分業を制御する上で基礎的な知見や基盤となる技術が整ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基盤となる技術であるヘテロシスト特異的な遺伝子発現抑制技術開発に加え、当初の研究予定にはなかったが、窒素源が存在するにもかかわらず窒素固定細胞であるヘテロシストが形成するメカニズムについて明らかにした。ヘテロシストの代謝改変に加え、ヘテロシスト細胞の割合を制御する技術の確立につながる。これにより、基礎・応用の両面からヘテロシストを利用した物質生産技術の開発基盤が整ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により基礎・応用両面から、Anabaenaによる代謝分業を利用した物質生産を行うための基盤が整ってきた。今年度は、これらを統合していく。具体的には、細胞腫特異的遺伝子発現抑制によりヘテロシストによるエタノール生産性を増加させた株において、cyabrB1ノックダウンにより窒素源存在下で形成したヘテロシストがエタノールを生産できるか、また、窒素源非存在下に比べての生産性を検討していく。生産性が低い場合、原因を探るため、cyabrB1ノックダウンにより窒素源存在下で形成したヘテロシストの分化状態を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に当初の想定より大幅に計画が進行しため、2019年度において試薬購入計画に変更が生じた。また、2018年の異動に伴い、機器や試薬の当初の購入予定との間に差異が生じた。2020年度は、cyabrB1ノックダウン株の窒素源存在下でのヘテロシストの分化状態を調べるため、遺伝子発現解析の外注費用やリアルタイムPCR解析やウェスタン解析に必要な試薬の購入を計画している。
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