酸素発生型の光合成を行う栄養細胞と窒素固定を専門に行うヘテロシスト細胞の2種類の細胞からなる多細胞性のシアノバクテリアであるAnabaena sp. PCC 7120において、単細胞性のシアノバクテリアでは困難である2種類の細胞を用いた代謝分業により効率的な物質生産を目指すべく、ヘテロシスト特異的に遺伝子発現をノックダウンするシステムの開発を当初の主たる目的とした。CRISPRi法とこれまでに自身が以前に開発した遺伝子発現制御系をうまく組み合わせ、目的の系の開発に成功し、エタノール生産へと応用した。その過程において、必須遺伝子で機能解析が困難であったcyabrB1について、CRISPRi法により機能解析を進め、cyAbrB1がヘテロシスト形成関連遺伝子hepAやhetPの発現抑制に寄与することを明らかにした。cyabrB1ノックダウン株では、hepAやhetPの発現量が上昇し、本来ヘテロシスト非形成条件である硝酸塩存在下でもヘテロシストを形成した。物質生産の場として利用するヘテロシストの数を人為的に制御するための、重要な発見である。さらに、Anabaenaで構築したCRISPRiの技術を移植し、単細胞性シアノバクテリアSynechocystisでcyabrb1ノックダウン株を作製し、RNA-seq解析により制御遺伝子の探索を行った。その結果、SynechocystisでcyAbrB1は窒素欠乏で発現が変動する遺伝子の一部の発現制御に関わることが示唆された。これにより、シアノバクテリアで広く保存されているcyArbB1の機能の本質やシアノバクテリアの多様性と可塑性の一端に触れることができた。
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