研究課題
出芽酵母のトリプトファン輸送体Tat2は、低濃度トリプトファン存在下では細胞膜に局在するが、高濃度で添加すると液胞に運ばれ分解される。今年度は、細胞膜のドメイン構造eisosomeに着目し解析を行った。Eisosomeは近年、アミノ酸輸送体の貯蔵コンパートメントとして注目されている。EisosomeのマーカーPil1-mCherry株を作製しTat2-GFPとの共局在を調べたところ、共局在を示すピアソンの相関係数は、低濃度トリプトファン存在下で0.45程度であることがわかった。一方、高濃度トリプトファンを添加したところ、相関係数は有意に低下した。すなわち、Tat2はトリプトファン添加後eisosomeから離脱しエンドサイトーシスされ、液胞分解に至る可能性が示唆された。一方、Tat2の高活性型変異Tat2-I285T株(Amano et al. Biophys. Biochem. Res. Commun. 2019)では、トリプトファン濃度が低いにも関わらず、シクロヘキシミドで新たなタンパク質合成を抑えるとTat2-I285Tはeisosomeからの離脱することがわかった。すなわち、Tat2はトリプトファンの取り込みと連動してeisosomeから離脱し分解されるものと考えられる。このことは過剰な基質の取り込みを抑制する安全弁の存在を示すものである。また、高圧環境というストレス条件下で栄養源輸送体の機能維持を担う新たなタンパク質Ehg1を発見した。Ehg1は小胞体に局在し、ヒスチジンやロイシン、ウラシルなどの輸送体と物理的に相互作用し、それらを高圧下で安定化することを明らかにした。そして、Ehg1が新規ERシャペロンであることを報告した(Kurosaka et al. Sci. Rep. 2019)。
2: おおむね順調に進展している
Tat2の分解をeisosomeからの離脱という観点で解析する方法論が確立された。また、既に100種類以上の機能欠損変異型Tat2を有しているので、Tat2の構造転移と分解との関連を解明する前提となる十分な材料が得られていると言える。Ehg1と協調的に働く数種類の機能未知タンパク質を同定しており、全体像の把握に貢献するものと期待される。
Tat2は基質の取り込みに伴って何らかの構造転移を示し、それがきっかけとなりeisosomeから離脱するものと考えられる。遺伝学的アプローチとしては、100種類以上の機能欠損変異型Tat2の中から、eisosome局在に異常を示すものを見いだす。これにより、eisosome局在に重要なアミノ酸残基が特定されるはずである。しかしながら、遺伝学的解析ではTat2の動的構造変化の実体を解明することはできない。そこで、非変性ゲル電気泳動法を用いて、野生型と変異型Tat2の泳動パターンの違いからこれを判別する方法論を確立する方針である。Ehg1をはじめとする新規タンパク質と物理的に相互作用するタンパク質を同定する。具体的には、FLAG融合したEhg1タンパク質を免疫沈降法により回収し、結合タンパク質をLC-MS/MS等の解析で同定する。結合タンパク質の特性からEhg1の作用メカニズムに関する知見が得られるものと考えられる。
新規タンパク質と相互作用するタンパク質の同定について、LC-MS/MS解析(外注)を予定していたが、FLAG免疫沈降の条件設定が難航し、外注には至らなかった。また、RNA-Seq解析については、RNAの抽出条件は設定できたが、現在は大量の試料調製の準備段階にある。これらの実施を今年度は計画している。
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Sci. Rep.
巻: 9 ページ: 18341
https://doi.org/10.1038/s41598-019-54925-1