研究課題/領域番号 |
18K05399
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
高妻 篤史 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (20634471)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 微生物電気化学 / 微生物電気合成 / 物質生産 / 細胞外電子伝達 / 発現制御 |
研究実績の概要 |
本研究は環境調和型の物質生産プロセスとして微生物電気合成(microbial electrosynthesis; MES)に着目し、その効率向上において鍵となる電気活性細菌(electroactive bacteria; EAB)の代謝活性を制御するための知的・技術基盤を確立することを目的とする。本研究では2種の代表的なEAB、Acidithiobacillus ferrooxidansとShewanella oneidensisを用いて、これらの細菌の電気合成能力を電気化学的・遺伝子工学的に制御することによってMESプロセスの高効率化を目指す。具体的には(i)電極電位応答性転写制御システム(“電位スイッチ”)の構築、(ii)電位応答トランスクリプトーム・メタボローム解析、(iii)電位スイッチを利用したMESプロセスの構築、の3項目の実施により、EABの代謝制御技術とそれを応用したMESプロセスの開発を行う。 上記項目のうち,(i)については、電位応答性プロモーターをレポーター遺伝子(lacZ)の上流に連結したレポーターシステムを構築し、遺伝子発現量の電位応答を測定できる実験系を構築した。(iii)については、S. oneidensis MR-1株を用いたMESプロセスの構築に向け、グルコースを発酵的に代謝可能な変異株の構築を行うとともに、本株に電極から電子を供給することによってNADHとATPの合成が促進されることを明らかにした。また、本株の主要な炭素異化代謝酵素である乳酸脱水素酵素(LdhAとDld)の生理学的機能を解明した(Kasai et al. 2018)。さらに、本株の遺伝子改変を効率的に行うことが可能なゲノム編集技術を開発した(Suzuki et al., in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. oneidensis MR-1株を用いたMESプロセスの開発については、MESのベースとなるグルコース発酵代謝株の作製に成功するとともに、電極から細胞内に物質変換に必要なエネルギー(NADHとATP)を供給できることを示した。また、本株の電流生成とバイオフィルム形成に関与する新規因子を複数発見した(環境バイオテクノロジー学会2018年度大会、日本農芸化学会2019年度大会にて発表)。さらに、遺伝子改変を高効率化する技術として、MR-1株に適用可能なゲノム編集技術の確立にも成功した(Suzuki et al., in press)。電位スイッチについては、その概念を総説として発表した(Hirose et al., in press)。これらの知見は今後の電位スイッチとMESプロセス開発の基盤となるものであり、研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は引き続き電位スイッチの構築を行うとともに、EABのメタボロームの電位応答性を解析する。現在GC-MSとHPLCを用いたメタボローム解析の検討を進めており、実験系の確立が完了した後、電極電位の変化が代謝産物に与える影響を調べる予定である。また、MR-1株に対して物質生産に必要な外来遺伝子を導入し、電極からの電子供給によって目的物質の生産が促進されることを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文の受理に当初の想定より時間がかかり、掲載費の支払いが次年度となったため。
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