研究課題/領域番号 |
18K05402
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
笹野 佑 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (90640194)
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研究分担者 |
田口 久貴 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (90212018)
原島 俊 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (70116086)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノム工学 / CRISPR/Cas9 / 染色体工学 / 酵母 |
研究実績の概要 |
本研究では、出芽酵母を用いて、複数個所の遺伝子領域を重複ないし欠失させることで、染色体の異数性を大規模かつランダムに引き起こし、従来技術では得られない多様なゲノム組成を持つ菌株集団を作製し、これを最終的に菌株育種へと応用することを目指すものである。 欠失による異数体作製については酵母染色体の末端領域計17領域をターゲットに、少なくとも2か所が欠失した菌株ライブラリーを作製した。これを用いて、発酵阻害物質であるフルフラールやHMFなどのフラン化合物含有培地での生育を指標にスクリーニングしたところ、耐性株が数株得られた。得られた菌株の解析の結果、欠失領域を特定した。また、阻害物質含有条件での発酵試験を行ったところ、親株よりも発酵生産性が向上した。一例として、4番染色体左末端と右末端を両方とも欠失した菌株はHMF耐性を示す。HMF含有培地での発酵試験では、培地に存在するHMFを親株よりも早く分解することが出来るために、増殖の立ち上がりが早くなり、発酵生産性が向上した。 重複による異数体作製については、以前の申請者らの予備実験では少なくとも2か所の遺伝子領域の同時重複に成功していたが、今回、1か所の遺伝子領域の重複は成功するものの、2か所の遺伝子領域の同時重複を行うことが出来なかった。従って、複数領域が同時に重複した異数体ライブラリーは未だ作成できていない状況である。急遽、同時並行的に、二倍体酵母株を親株として、相同染色体の片方の遺伝子領域を欠失することで部分異数体を作製する試みも行っているが、まだ結果は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の通り、欠失による異数体作製については予定通り進捗しているが、重複による異数体作製については2か所の遺伝子領域の同時重複に成功していないため、ライブラリー作製が出来ていない。この理由としては、欠失とは異なり、原理的に染色体重複は細胞周期のS期以降に組換えが起きる必要があるため頻度が低く、欠失よりも技術的な難度が高いこと。また、今回実験を担当した学生は実験キャリアがほとんどない学部4年生であり、実験操作に習熟していなかったことも理由として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
欠失による異数体作製については、今年度は末端領域でなく、内部領域をターゲットにした育種を行う。末端領域と比較して内部領域の方がより重要な遺伝子が多いため、より多様な表現型を持つ菌株集団を構築できるものと期待してる。さらに、当初の予定通り、1年目に得られた研究成果をもとに、産業で使用されている実用酵母の育種を始める。具体的には、バイオエタノール生産酵母において、欠失することでフラン化合物耐性を付与する領域を欠失させた菌株を育種し、発酵生産性を解析することを行う。 重複による異数体作製については、重複の効率を高めることを考えている。具体的には、今現在重複に用いているCRISPR/Cas9の発現システムは当初CRISPR/Cas9システムが発表された当時のオリジナルのものを用いているが、昨今では改良型のCRISPR/Cas9システムが多く開発されているので、それらを用いることで重複効率を改善できないかと考えている。また、全く別のアプローチとして、染色体の一部領域を重複することとほぼ同様な染色体操作として、染色体の一部領域の染色体外環状DNA化(Ecc化)に着目している。これは本申請課題とは別に我々が開発している技術で、任意の染色体領域を染色体とは独立した環状のDNAにする技術である。この方法による複数の遺伝子領域の重複を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で使用する消耗品のうち、異数体ライブラリーを作製する際に使用するPCR用プライマーが多くを占める。2か所の遺伝子領域の同時重複がうまくいかないという結果は当初の想定外であり、研究が異数体ライブラリーを作製するところまで至らなかったことが理由である。
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